Wild at Art: BMWアート・カーの歴史

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BMWアート・カー。それは、BMW M1やBMW Z1のような伝説的な車と、ロイ・リキテンスタインやジェフ・クーンズといった著名なアーティストとの偉大なるコラボレーション。どの時代に、どんなアーティストが、どのBMWをデザインしたのか、その歴史をたどってみましょう。

2021/1/14

BMWアート・カーと聞いて、どのアート・カーを皆さんは思い浮かべますか?なかでもアンディ・ウォーホルが手掛けたBMW M1にインスピレーションを受けた人も多いことでしょう。しかし、偉大なる作品はそれだけではありません。1975年以降、世界の名だたるアーティストとのコラボレーションによって生み出された19台のユニークなモデルが、BMWアート・カーの歴史を彩ってきたのです。

「この世に誕生して以来ずっと、クルマはアーティストを魅了してきました」。
トーマス・ギルスト博士

BMW Group
コミュニケーション戦略・文化活動責任者

すべては1975年、フランス人レーシング・ドライバーのエルヴェ・プーランが、あるアーティストにレーシング・マシンのデザインを依頼したことに始まります。それがやがて、クルマとアートによる最も魅惑的なコラボレーションに発展するとは、この時は誰も予想だにしませんでした。しかし、そうなるのも実は当然のことです。偉大なアーティストが何の制約にもとらわれず自由な発想で、BMWの伝説的なマシン(のちには量産モデルも)をデザインするのですから。

それぞれに異なる才能を持つアーティストたちが、本格的なレーシング・マシンから、量産モデル、稀少なスポーツ・カーに至るまで、多様なBMW車をグラフィックとアートの幅広い技法を用いて素晴らしい芸術作品へと昇華させました。使用される車両はその時々で異なり、表現の手法に関しては、各アーティストに委ねられました。このBMWアート・カー・ギャラリーの19作品を鑑賞した後、きっとあなたはこう思うでしょう。アート・カーの20番目はいつ登場するのか?この伝説的なBMWコレクションで次に名を残すアーティストは誰か?そして何よりも、BMWのどのモデルが使用されるのか?

#1

アレクサンダー・カルダー / BMW 3.0 CSL / 1975

1975年、アメリカ人彫刻家アレクサンダー・カルダーによってデザインされたレーシング・マシンBMW 3.0 CSLが、伝説的なアート・コレクションの先駆けになることを誰が予測したでしょう。BMW Groupコミュニケーション戦略・文化活動責任者のトーマス・ギルスト教授によると、BMWアート・カーは当時の広報部門によって企画されたものではなく、レーシング・ドライバーのエルヴェ・プーランがこのアイデアを最初にBMWに持ちかけたのが始まりであったといいます。プーランはル・マン24時間耐久レース(→詳細はこちら24 hours of thrills※リンク先は英語です。)において、93番のゼッケンをまとったこのBMW 3.0 CSLを実際に運転しました。完走はしなかったものの、カルダーの動く彫刻に対する反響は凄まじいものでした。レースのスターター・ピストルのごとく、まさにこれがBMWアート・カーの始まりの合図となったのです。

#2

フランク・ステラ / BMW 3.0 CSL / 1976

その翌年、カルダーの同胞フランク・ステラがあとに続き、ル・マン24時間耐久レース、ゼッケン21のBMW 3.0 CSLのアートを手掛けます。モーター・スポーツ愛好家のステラにとって、BMWアート・カーの2台目をデザインするのはとても名誉なことでした。彼は、クルマ自体の技術的な基盤からインスピレーションを受け、それを表現します。完成した作品は、方眼紙のようなグリッドをベースに、白と黒のみでデザインされたものでした。750psという驚異的パワーを発生するこのレーシング・マシンが、その他のカラフルな競合車とは一線を画す存在であることを示したのです。そして、カルダーの時と同様にステラのデザインを完璧に仕上げたのは、BMWの名塗装師として名高いヴァルター・モーラーでした。

#3

ロイ・リキテンスタイン / BMW 320i Turbo / 1977

さらに1年後の1977年には、3番目のBMWアート・カーが誕生、これも著名なアメリカ人アーティストによるものでした。ポップ・アートの巨匠、ロイ・リキテンスタインは、彼のトレードマークである「ベン・デイ・ドット」を施し、BMW 320i Turboの側面に風景が流れるような視覚効果を生み出しました。そしてもちろんこの作品も、展示される前にはレーシング・マシンとして激しい戦いを繰り広げています。これまで同様、舞台はもちろんル・マンです。ドライバーのエルヴェ・プーランとマルセル・ミニョーが50番でこのマシンに乗り、クラス優勝、総合9位という輝かしい成績を残しています。

#4

アンディ・ウォーホル / BMW M1 / 1979

おそらくBMWアート・カー・シリーズの中で最もよく知られているのが、アンディ・ウォーホル自らが塗装を手掛けたBMW M1でしょう。BMW M1は、スーパー・スポーツ・カーとしての本質から見ても伝説的な存在です。それがさらに、世界的なポップ・アーティストの才能をまとうことで、史上最も価値ある一台となりました。しかし、これまでのアーティスト同様に、ウォーホルもまたカー・アーティストとしての仕事に対する報酬を受け取りませんでした。しかも彼は、これまでのアーティストのようにスケールモデルにデザインをして塗装家にペイントを任せるのではなく、自ら直接車両にペイントを施したのです。「私は視覚的なイメージとして、スピードを表現しようとしました。クルマが本当に速く走っている時には、すべての線と色彩が不鮮明になります。」とウォーホルは説明し、その言葉通りに13ポンド(約6kg)を超える塗料を使ってM1をわずか28分で塗り上げたのです。ウォーホルの素晴らしいパフォーマンスから生まれたこのミッドシップのレーシング・マシンは、1979年のル・マンでもその速さを証明。最終的には総合6位という好成績を残し、引退後もなお博物館でその鮮烈な存在感を放ち続けています。

このBMW M1 Group 4 Racing Versionは、2014年に東京・六本木ヒルズにて、制作風景を記録した貴重な映像と共に展示され、多くの人がアンディ・ウォーホルのBMW M1を観に展示会を訪れました。

当時の記事はこちら

#5

エルンスト・フックス / BMW 635 CSi / 1982

続いて、5番目のアート・カーの登場です!1982年、オーストリア出身のエルンスト・フックスが手掛けたのはBMW 635 CSi。量産モデルをベースとした初めてのBMWアート・カーです。「ウサギ狩りの火狐」と名付けられたこのモデルは、最初から完全な展示作品として生み出されました。それまでフックスは大きな聖者の絵で知られるアーティストでしたが、このBMWアート・カーで全く新たな表現に挑みます。この時、黒い背景に描かれた炎は、のちの彼の作品の象徴となったと言っても過言ではありません。

#6

ロバート・ラウシェンバーグ / BMW 635 CSi / 1986

6番目のBMWアート・カーは、またしてもアメリカが生んだポップ・アートの先駆者、ロバート・ラウシェンバーグによるものです。前作同様、このBMW 635 CSiもレースで使用されることはありませんでしたが、アーティスト自身が運転し、実際の路上を走行したのはこれが初めてでした。ラウシェンバーグは、アート・カーの製作にあたり、他のアーティストの作品を利用するという手法を選びます。写真技術を駆使して他の作品を処理し、ホイルを使ってそれらを車体に貼り付けたのです。その結果、ラウシェンバーグの得意とするコラージュをまとったBMWクーペが完成しました。彼はこのBMW 635 CSiの作品で、芸術、自然および科学技術という3つの分野の結びつきを示したと語っています。

#7

ミハエル・ジャガマラ・ネルソン / BMW M3 Group A / 1989

BMWアート・カーの7番目は南半球のアーティスト、ミハエル・ジャガマラ・ネルソンによる作品です。グループAのレーシング仕様車だった黒のBMW M3が、7日後にはこのアーティストによって、オーストラリアのアボリジニ文化と自然を反映した芸術作品に生まれ変わりました。その製作過程において、ジャガマラ・ネルソンは太古のアーティストの力を借りています。アボリジニは文化の芸術を保存するために、彼らのイメージをモチーフに変換しました。そしてそれは、洞窟壁画を通して何世代にもわたり、先住民族のオーストラリア人の間で受け継がれてきたのです。こうした伝統な視点から見るとBMW M3もまた、カラフルで色褪せることのない、大きなパズルのようにも見えてきます。
ジャガマラ・ネルソンは、BMWをキャンバスとしたこの芸術作品に自身の夢を投影したと述べました。この車は、アーティストにとって正真正銘のドリーム・カーとなったのです。

#8

ケン・ドーン / BMW M3 Group A / 1989

1989年、BMWアート・カーNo.8を飾ったのは、二人目のオーストラリア人アーティスト、ケン・ドーンです。ジャガマラ・ネルソンの時と同様、グループAのBMW M3ツーリング・カーをベースにしましたが、ネルソンの作品とは対照的に、ドーンは現代のオーストラリアを表現しました。カラフルな魅力をまとったこの左ハンドル車には、誰もが目を奪われたことでしょう。彼の狙いは、BMWアート・カーを使って故国の幸せな側面を描くことでした。自然、太陽、ビーチ、魚やオウムなどをイメージしたドーンのBMW M3は、まさに「ポジティブ」そのものだったのです。
このBMW M3もまた、芸術作品として展示される前にオーストラリアのサーキットを駆けぬけ、観衆たちの注目を集めています。

#9

加山又造 / BMW 535i / 1990

ここで再び、量産モデルの番が回ってきました。BMWアート・カーNo.9のBMW 535iは、アジア出身のアーティストによってデザインされた初めてのアート・カーです。繊細な美しさを全身にまとったこのBMW 5シリーズは、日本画家の加山又造がエア・ブラシを使って仕上げました。彼は同時に箔を貼り付ける特殊な技法により、流れのある景色を車体に描きだしました。加山自身はインスピレーションの源について「雪の結晶の印象を与えたかった」と語っています。

#10

セザール・マンリケ / BMW 730i / 1990

1990年、スペインの前衛的な芸術家セザール・マンリケは、このBMWの移動するアート・プロジェクトに貢献する機会を与えられました。記念すべき10番目のアート・カーは、BMW 7シリーズです。
ひと目見た時、その明るい配色と抽象的な形の中に自然の要素を読み取ることができれば、それが正解です。この作品でマンリケはスペインにある亜熱帯性の島、ランサローテの自然をモチーフにしています。黒の部分はカナリア諸島の溶岩を、緑は熱帯雨林を、赤は生命を表しています。その流れるようなグラフィックにも、マンリケが自動車に不可欠だと考えていたものを見ることができます。それは、乗っている人を迅速に運ぶという使命です。

#11

A. R. ペンク / BMW Z1 / 1991

ドイツ・ドレスデン生まれのアーティスト、A. R. ペンク(本名ラルフ・ヴィンクラー)がデザインを手掛けたのは、もはやクルマ自体が芸術的で稀少なBMW Z1でした。当時最新のデザイン言語と上下にスライドするリトラクタブル・ドアを採用したBMW Z1は、脈々と続くBMW自動車史の大きなマイルストーンのひとつです。ペンクのBMWアート・カー・シリーズへの寄贈は、ロードスターの初披露から4年後に行われました。洞窟壁画からインスピレーションを受けたペンクは、抽象的な図形と記号をデザインしました。これらが何を意味するのか、ぜひあなたご自身で解釈してみてください。アーティストが作品を解読する手がかりを一切示していないことも、このアート・カーを魅力的なものにしている理由のひとつです。

#12

エスター・マラング / BMW 525i / 1991

12番目のBMWアート・カーのは、女性アーティストが初めて手掛けた1991年のこのBMW 5シリーズです。そのデザインからも、アフリカ文化へのオマージュを表現していることがひと目でわかります。マラングによると、このンデベレ柄として知られているデザインは「私の部族が家を装飾する方法」に由来しているのだといいます。それは世代から世代へと、女性の間でのみ受け継がれる伝統です。この南アフリカのアーティストは、1週間かけてこのデザインを完成させました。この12番目のBMWアート・カーも完全に展示用として製作されましたが、他に類を見ない素晴らしい作品であることは言うまでもありません。

#13

サンドロ・チア / BMW M3 GTR / 1992

イタリア人アーティスト、サンドロ・チアは、アート・カーのデザインを自らBMWに持ちかけました。そしてBMW M3 GTRのレーシング・プロトタイプに想いを巡らせます。その結果は、強烈なものでした。車両全体にあしらわれた、目を見開く人々の顔、顔、顔。この作品を見る誰しもが、あたかも自分が四方から観察されているように感じます。チアは次のように述べています。「すべての目がこのクルマに引きつけられます。クルマを凝視する人々。この車は、そんな彼ら自身の視線を反映しているのです。」

#14

デイヴィッド・ホックニー / BMW 850 CSi / 1995

アート・カーのバトンは、イタリアからイングランドへ渡されます。BMWコレクションの目録に名を連ねる次の一流アーティストは、イギリスのスーパースター、デイヴィッド・ホックニーです。今回はBMWからアーティストに参加を要請し、粘り強い説得の末、実現に至ります。ホックニーのBMW 850 CSiは、長期のプロセスを要するものでした。なぜならそれは、少しの塗料を塗るような単純な作業ではなく、ペイントを施すために車を分解して完全に裏返す、というものだったからです。彼はこの方法で、車の外殻に覆われたその奥にあると信じるもの、つまり、自動車の素晴らしいテクノロジーを表面化させました。

#15

ジェニー・ホルツァー / BMW V12 LMR / 1999

ジェニー・ホルツァーが手掛けたル・マン24時間耐久レースのためのBMW V12 LMRをひと目見ただけの人は、この作品を「ファスト・アート」という言葉で片付けてしまうかもしれません。このアメリカ人アーティストは、批判的な意見や、思考を刺激する大胆で極端な発言でもよく知られています。彼女は独自のスタイルで、反射するクローム文字と蛍光ホイルを用いてレース・カーの白い塗装にいくつかのスローガンを描きました。例えばもし「複雑すぎて危険に対して鈍感になっている」というメッセージを見た時、これはどういう意味だろう?とあなたが考えたとしたら、まさしくそれはホルツァーの思惑通りです。

#16

オラファー・エリアソン / BMW H2R / 2007

アイスランド系デンマーク人、オラファー・エリアソンの自動車アートは、BMWアート・カー・シリーズにおけるそれまでのどの作品からもかけ離れたものでした。最初は、そこに車が存在するということさえ認識できません。巨大な繭のような物体が佇んでいるだけです。エリアソンは自然や物理的な現象を扱う作品で知られていますが、まさに彼に最適なモデルがアート・カーの対象となりました。殻の中に収まっているのは、水素で動くレーシング・プロトタイプです。繭に話を戻しましょう。
この繭は、巨大な冷凍室の中で小さな金属板に水を吹きかけて作られたシェルです。BMW H2Rを包み込む、氷の鎧を形成しています。移動するオブジェクトは、静止した不動産になる。これが、社会の持続可能性に取り組むための、エリアソンのアプローチです。

#17

ジェフ・クーンズ / BMW M3 GT2 / 2010

世界の一流アーティストが参加したこの企画において、ジェフ・クーンズの存在は欠かせません。17番目の作品は、ポップ・アートの復活とBMWアート・カー・シリーズの原点回帰を示すものとなりました。
「私は速い!」このアメリカ人アーティストがBMW M3 GT2で表現しようとしたのはまさにそれです。明るい色のエレメントはこの車の表面をかすめ飛んでいるかのようにも見え、静止している時でさえも前へ飛び出そうとしている印象を与えます。表現したのは、全身から迸るパワーです。2010年、ル・マン24時間耐久レースのスタート・ラインに立った時、その存在が人々を熱狂させたのは言うまでもありません。このクーンズの作品は、BMWアート・カー・シリーズにおける以前の作品との架け橋になりました。

#18

ツァオ・フェイ / BMW M6 GT3 / 2017

現時点における最後のBMWアート・カーは、中国のマルチメディア・アーティスト、ツァオ・フェイによって生み出されたものです。多くのレーシング・マシンに採用されているカーボンにフォーカスし、プロジェクトの背景にもブラックを採用しています。専用アプリをダウンロードすれば、拡張現実機能によってカラフルな光の粒子や帯がレーシング・マシンの頭上で戯れるアートを愉しむことができます。アーティストであるツァオは、18番目のBMWアート・カーにおいて現実とデジタルの2つの世界を統合させているのです。

#19

ジョン・バルデッサリ / BMW M6 GTLM / 2016

ジョン・バルデッサリによる2016 BMW M6 GTLMは、素晴らしいBMWアートのもうひとつの例です。BMWアート・カーの愛好家が感嘆する次のモデルが登場するまで、実に6年の歳月がかかりました。このカリフォルニアのアーティストは、自身のスタイルに基づく要素を極めてミニマムに、しかしより大胆に活用することで、大きな効果を求めたのです。ドライバー側のドアに書かれた文字が、そのすべてを物語っています:「FAST」- 速さ、それはBMW M6 GTLMのようなレーシング・カーにとって非常に重要なファクトです。アーティスト自身も「このBMWアート・カーは、これまでに生み出された作品の中でも間違いなく最速です!」と述べています。

伝説的なBMWアート・カーには、どのような歴史があるのでしょうか?

BMWアート・カー。それは、BMW M1やBMW Z1のような伝説的な車と、ロイ・リキテンスタインやアンディ・ウォーホルといった著名なアーティストとの偉大なるコラボレーション。1975年から2017年までに19台のBMWアート・カーが生まれました。そのどれもが他に類のない、デザイナーの技術と作風が反映された素晴らしい作品ばかりです。

写真・映像:BMW; 記事:ニルス・アーノルド

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