「Beast - 怪物」。ニューBMW X6を手がけるデザイナー、フセイン・アル・アターは、この作品をそう名付けました。まさに言い得て妙です。なぜなら、この世のどんな黒でも、すべてを吸い込むVANTA BLACKに及ぶ黒はないからです。
VANTA BLACKは、実際には顔料や塗料ではなく、カーボン・ナノチューブから構成されるコーティングです。このコーティングは、入射光をほぼ完全に吸収するという性質を持っています。深い黒の背景の前では、ベンタブラックが施された物体はまるで消えているように見えます。これは、コーティングされた物体の形状を人間の目が2次元であると認識し、空間的な奥行きの知覚が失われるためです。
ニューBMW X6のショーカーは、建築および科学分野向けに開発された『VANTA BLACK VBx2』でコーティングされました。VANTA BLACKをベースに生み出されたこのコーティングの反射率は1%ですが(純粋なVANTA BLACKの反射率は0.036%)、「スーパーブラック」であることに変わりはありません。すべての角度でごくわずかな光の反射を伴うにしても、スプレーにより塗布できるという利点からこのコーティングが採用されました。
「VANTA BLACKは、ニューBMW X6の圧倒的なサイズと比類なきフォルムに、より強烈なオーラをまとわせます。」
ベン・ジェンセン - 『VANTA BLACK』開発者
『VANTA BLACK』とは。
『VANTA BLACK』はカーボン・ナノチューブから構成されるコーティングで、光をほとんど反射しません。このブラックは、地上に存在するなかで最も黒いブラックであると考えられています。Surrey NanoSystems社によって生み出され、同社が一切の権利を保有するこの技術は、衛星機器のコーティングなど宇宙事業向けに開発されました。 「Vanta」とは、「Vertically Aligned NanoTube Arrays(垂直に並べられたナノチューブの配列)」の略称です。
「スーパーブラック」を纏ったBMW X6 Vantablack。かつて、光を反射しない物質でクルマがペイントされたことは一度としてありませんでした。VANTA BLACKの開発を続けるSurrey NanoSystems社との共同作業によって生み出されたこのクルマは、入射光をほぼ完全に吸収するコーティングにより多くの人々の目を文字通り“引きつける”ものとなっています。
「私たちはこれまで、多くのメーカーからのオファーを断り続けてきました。」と、VANTA BLACKの開発者であり、Surrey NanoSystems社の創設者でもあるベン・ジェンセンは語ります。「しかし、唯一ニューBMW X6だけは、我々とのコラボレーションに相応しいクルマだと直感したのです。」
この技術は、もともと先端宇宙事業向けに開発されたものでした(:隕石は如何にしてクルマとなったか)。VANTA BLACKは430℃以上の温度で処理されるため、アルミニウムなどの繊細な材料にも用いることができます。VANTA BLACKでコーティングされた光学望遠鏡では、光を吸収することで、散乱光が影響して観測が困難になる微細な光の星や遠くの銀河を捉えることが可能です。
そして、ついにこの最先端技術とBMWのコラボレーションが実現しました。ニューBMW X6のデザインでは、照明付キドニー・グリル「アイコニック・グロー」や、4灯式のヘッドライト、特徴的なL字テールライトなど輝きを放つエレメントと、光を吸収するマットで滑らかなVANTA BLACKのボディが、究極的に美しいコントラストを成しています。
ニューBMW X6のデザイナー、フセイン・アル・アターは、これこそがこのプロジェクト最大の特徴であり、同時に圧倒的な魅力でもあると考えています。VANTA BLACKは、デザイナーたちに新たな視点をもたらしました。ショーカーを設計するにあたって、彼らは光の反射や色彩の変化といった要素を気にかけることなく、クルマの純粋なプロポーションについて集中することができたのです。
「『VANTA BLACK VBx2』は、光の角度や反射といった要素にとらわれず、自動車設計においての純粋かつ本質的なコンセプトを光り輝かせます」
フセイン・アル・アター - BMWデザイン・ワークス オートモーティブ・デザイン クリエイティブ・ディレクター
BMW X6 VANTA BLACKを購入することはできますか?
BMW X6 VANTA BLACKは、日常的な利用において現時点ではコーティングの耐久性が確保できないため、特別なワンオフ・モデルであることが運命付けられています。また、この「スーパーブラック」でのペイントが非常に高価であることや、公道での安全性もその理由に挙げられます。
しかし、将来的にこのテクノロジーは、ドライビング・アシストで重要な役割を果たすレーザー・ベース・センサー・システムに採用されることで、自動運転(→関連記事を読む:自動運転への道)におけるあらゆる場面で、多くの人々に恩恵をもたらすことでしょう。