モビリティの未来を創造する水素燃料電池自動車とは?

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現在、燃料電池バッテリーは、エンジンの代替エネルギー源としてはまだ立ち遅れているというのが一般的な見解です。しかし、水素燃料電池自動車はこれから一気にその遅れを取り戻すだろうと専門家は予測しています。では、テクノロジーは今後どのように進化するのでしょうか?メリットとデメリットは何でしょうか?ここでは、水素燃料電池自動車に関するさまざまな疑問の答えを明らかにしていきます。

2020/6/16

大気汚染と騒音の低減。これらは電気自動車に期待される多くのことの一部です。eモビリティと聞くと、ほとんどの人は壁のコンセントから充電する大きなバッテリーを積んだ自動車を思い浮かべることでしょう。しかし今、これに代わる存在として、長時間の充電も必要としないもうひとつの駆動技術が交通専門家たちの注目を集めています。

この技術を駆使したのが水素燃料電池自動車で、FCEV (Fuel Cell Electric Vehicle)とも呼ばれています。ここでは、水素燃料電池自動車のメリットやデメリット、コストやリスクについてお話しする前に、まずはこの技術がどのような仕組みになっているのかを簡単にご説明します。

1.

水素エンジンはどのように機能するのでしょうか?

水素燃料電池自動車は電気モーターによってエネルギーが供給されるため、電気自動車に分類されます。「Fuel Cell Electric Vehicle(燃料電池電気自動車)」の頭文字を取ったFCEVという略語でもよく知られており、これに対し「Battery Electric Vehicle(バッテリー式電気自動車)」はBEVと呼ばれています。

水素燃料電池自動車と他の電気自動車の間には、決定的な違いがあります。それは、水素燃料電池自動車では発電が車両内で行われるという点です。つまり、完全な電気自動車やプラグイン・ハイブリッド・カーのように外部から電力を供給する充電型のバッテリーを搭載していません。(➜さらに読む:知っておきたい、EVとPHEVモデル)。その代わりとして搭載された効率的な独自の動力装置が燃料電池です。

イラスト:シプリアン・ロスリンガー
FCEVの燃料電池内で水素と酸素が反応し電気エネルギーが発生します。このエネルギーは、必要に応じて電気モーターかバッテリー、あるいはその両方に送られます。

燃料電池技術では、水の電気分解の逆の化学変化を利用します。このプロセスでは、水素が燃料電池内で酸素と反応します。水素は車両に組み込まれた一つあるいは複数のタンクから、一方の酸素は外気から供給されます。この結果生じるのが電気エネルギー、熱、水で、水は水蒸気として排気口から放出されます。つまり、水素燃料電池自動車は局所的にはゼロ・エミッションです。これについては後ほど詳しくご説明します。

水素エンジンの燃料電池内で発生した電気は、運転状況に応じて、2つのルートに分かれます。電気は、電気モーターへ流れて車両に直接電力供給するか、あるいはエンジンが必要とするまでエネルギーをバッテリーに蓄積します。これはトラクション・バッテリーと呼ばれ、非常に小型で完全電気自動車のバッテリーよりも軽量です。大きなバッテリーを必要としないのは、燃料電池で絶えず電気が供給されるためです。

他の電気自動車のように、水素自動車もブレーキング時のエネルギーを「回生」つまり回収することができます。電気モーターは減速時の運動エネルギーを電力に変換し、バックアップ・バッテリーに供給します。

2.

ユーザーにとって水素燃料電池自動車のメリットとデメリットは?

駆動技術のメリットおよびデメリットは、「ユーザー」と「環境」という2つの観点から考察することができます。いずれの技術であれ内燃エンジンに代わるものとしては、ユーザーの使いやすさと汚染物質の大幅な排出削減を実現していなければなりません。BMWグループの水素燃料電池プログラム・マネージャー、アクセル・リュッカーの説明を聞きながら、まず水素燃料電池自動車のドライバーあるいはオーナーにとってのメリットとデメリットについて検証してみましょう。

ユーザーにとってのメリット:

  • 水素燃料電池自動車は、100%電力によって駆動します。運転してみても、通常の電気自動車を走らせているのと同じような感覚です。電気モーターが低回転域から最大トルクを発生させるため、スタート時からのスムーズな加速を実現。静粛性にも優れています。
  • もうひとつの長所は、充電時間が短いという点です。充電ステーションやバッテリー容量にもよりますが、完全電気自動車をフル充電するには30分から数時間かかります。その一方で、燃料電池自動車の水素タンクはわずか5分以内で満タンになり、走行可能な状態になります。従来の自動車と比べてもまったく遜色のない利便性や柔軟性を実現します。
  • 今のところ、水素燃料電池自動車の航続可能距離は完全な電気自動車よりも長くなっています。水素タンクが満タンの状態で、約300マイル(約480キロ)の走行が可能です。BEV(バッテリー式電気自動車)はより大型のバッテリーを搭載することで航続可能距離を延長できますが、その分車両の重量が増すため、充電時間が長くなります。
  •  燃料電池自動車では、航続可能距離が外気温の影響を受けないため、寒冷時でも航続可能距離が短くなることはありません。

現時点でのユーザー・デメリット:

現在、水素燃料電池自動車の最大の短所は、水素補給のための選択肢があまりないことです。水素の補給は特殊なポンプで行いますが、おそらく将来的には通常の給油所でもこれが可能になることでしょう。しかし今のところ、水素燃料電池自動車に水素が補給できるステーションは僅かしかありません。アメリカで約40箇所(2019年末時点)、ドイツでは約80箇所(2019年末時点)、日本では約130箇所*(2020年5月時点)となります。

*出典元:一般社団法人次世代自動車振興センター
*「燃料電池自動車新規需要創出活動補助事業」の交付決定を受けた商用水素ステーションの数を示しています。

「水素燃料電池技術については“鶏が先か卵が先か”という状況になっています」とBMWでこの分野を専門的に研究しているリュッカーは語ります。「補給ステーションのネットワークが十分でない限り、水素燃料電池自動車は消費者からの需要も低く、採算が取れる形での量産化にはつながらないでしょう。また、路上に水素燃料電池自動車がほとんど走行していなければ、補給ステーションのネットワークを拡大することはためらわれるでしょう。」

BMWの本拠地ドイツは、水素燃料電池自動車のインフラ整備において先導的役割を果たしています。ドイツでの燃料補給インフラを拡大するため、BMWのような自動車メーカーが「クリーン・エネルギー・パートナーシップ イニシアティブ」(※リンク先は英語です。)という取り組みの中で水素製造プラントおよび補給ステーション業者と協力し、2022年までに水素補給ステーションを130箇所に増やす計画です。これにより、ドイツでは約60,000台の水素自動車の走行が可能になります。その次の目標は、燃料電池自動車の増加に対応しながら、2025年までに補給ステーションを400箇所に増やすというものです。しかし、FCEVでドイツ国内のみならず国外へも移動できるようにするには、近隣諸国の拠点も増やしていかなければならないことをリュッカーは付け加えています。

3.

水素燃料電池自動車の車両価格とその理由は?

補給ステーションのネットワークが十分でないことに加え、水素燃料電池自動車の需要が伸びないもうひとつの理由は、車両価格が相対的に高額であるという点です。すでに市場に出回っている燃料電池自動車の価格は、中級あるいは中上級のモデルでも700万円から800万円程度です。これは、同等の完全電気自動車あるいはハイブリッド・カーに比べて約2倍の価格です。

水素燃料電池自動車の価格がいまだに高額であるのには様々な理由があります。生産台数が少なく大規模な量産化に至らない点に加え、燃料電池には希少金属のプラチナが必要となることも要因のひとつです。発電中に触媒の役割を果たすプラチナの産出量はすでに大幅に減少しています。「当面の目標は、水素燃料自動車の価格を他の電気自動車と同じくらいのレベルに下げることです」とリュッカーは語ります。

高額となる理由としては、水素タンクがスペースを取るため、車両本体も大きくならざるを得ないということが挙げられます。これに対し、完全な電気自動車の場合はバッテリーだけで駆動するため小型車への対応も可能です。すべての車両クラスで電気自動車がラインアップされているのも、このためです。

購入コストに加えランニングコストもこの駆動技術の費用対効果において、重要な役割を果たします。水素燃料電池自動車の維持費は、燃料の価格に特に左右されるからです。現在、水素1lb(0.45kg)あたりのアメリカでの価格は約14ドルですが、ドイツでは4.8ドルです(H2 Mobilityが合意した価格)。FCEVは、水素1lbで約45km走行できます。

したがって水素燃料電池自動車の1km当たりの経費は、家庭で充電可能なBEV(バッテリー式電気自動車)の約2倍ということになります。これに対しリュッカーは「水素に対する需要が高まれば、価格は2030年までに約2.5ドル/lb(5.6ドル/kg)まで下がるはず」と予測しています。

4.

水素燃料電池技術は、いかに環境に優しく持続可能なのでしょうか?

再生可能エネルギーのみを使用し、有害物質を排出しない自動車は、環境の観点からも理想的です。他のエネルギーを利用する自動車と比較して、燃料電池自動車がいかにこの理想に近い自動車であるかを探りましょう。

  • 代替駆動システムの目的は、大気汚染物質の排出量削減であり、CO2のみならず亜酸化窒素などの有害ガスの削減も含まれます。水素エンジンから排出されるガスは、純粋な水蒸気です。したがって水素燃料電池技術では、ゼロ・エミッション走行が可能となるのです。これは街中の空気をクリーンに保つことを意味しますが、気候変動の抑制にも役立つのでしょうか?
  • それは、燃料電池自動車用の水素が製造される条件によります。水素の製造には電気エネルギーが必要です。水を電気分解し、水素を酸素から分離させるためです。この時使用されるのが再生可能エネルギーからの電力であれば、水素製造のCFP(カーボン・フットプリント)は中立的です。一方、化石燃料が使われるとCO2が発生し、最終的には水素を利用する燃料電池自動車のカーボン・フットプリントに影響を与えることになります。その影響がどれだけ強いかは、使われるエネルギー構成によって異なりますが、この点で水素燃料電池自動車と他の電気自動車との間に大きな違いはありません。
  • また、水素製造における欠点として、電気分解中のエネルギー損失も挙げられます。電気分解で得た水素で車を駆動させる場合の総合効率は、BEV(バッテリー式電気自動車)の半分にしかすぎません。
  • しかし水素は、天候に左右される太陽光や風力発電などで使われなかった余剰エネルギーを蓄電しておくことが可能です。この潜在可能性は大きいものがあります。
  • 水素は多くの工業プロセスの副産物でもあります。大抵の場合は廃棄物として処理されそれ以上使われることはありませんでしたが、燃料電池バッテリーがこの水素のアップサイクルを可能にしています。そのためにはまず、水素を生成しなければなりません。

  •  水素燃料電池自動車のエネルギー・バランス・シートには、水素の輸送と保管も含めなければなりません。また、液状かガス状かによって圧縮、冷却、輸送、保管などかかる経費も異なりますが、現在はその優れた輸送性と貯蔵性により、液体水素が主流となっています。それでも今の時点ではまだ水素の輸送と保管はガソリンやディーゼルよりもはるかに複雑で、エネルギー集約型であることに変わりはありません。しかし理論的には、水素は化石燃料とは異なり、電力と水があればどこのステーションでも製造することが可能です。将来的により高度なインフラが整備されれば、輸送距離の大幅な短縮化にも繋がります。

    結論として、水素燃料電池技術は環境的に持続可能なモビリティ実現の大いなる可能性を秘めています。しかし、BMWの専門家であるアクセル・リュッカーの言葉を借りると、水素の製造には再生可能エネルギーを使用すること、そして輸送距離を短くするための技術インフラの拡張が何よりも重要であることがわかります。
電気自動車は気候変動の緩和に実質的な貢献することが可能ですが、バリューチェーン全体が持続可能であることがその条件となります。
オリバー・ツィプセ

BMW AG CEO

5.

水素燃料電池自動車には、どのようなリスクがありますか?

制御不能な状態で水素と酸素が反応するとどうなりますか?この質問に、多くの人が学校の化学の授業を思い出すことでしょう。答えは「酸水素ガスの反応による爆発が起こる」です。このことからもわかるように水素は可燃性ガスですが、FCEVでこうした反応が起こることはまずあり得ません。

なぜなら水素燃料電池自動車の水素は、極めて安全な構造の肉厚なタンクに液体の状態で貯蔵されるからです。リュッカーは、数多くの衝突試験で水素燃料電池自動車の安全性が実証されていると強調します。過酷な状況下での試験を経ても、タンクは無傷で水素の漏出もなかったと説明しています。

また、水素技術は最近のものではなく、様々な分野で十分に試行が重ねられた技術であることも忘れてはいけません。たとえば製油所では、石油精製プロセスにおいて大量の水素を利用して水素化処理を行っています。また、パイプラインによる水素の輸送と貯蔵もすでに数十年前から行われています。

衝突試験により、水素タンクが衝突時に破損せず、水素の漏出もないことが証明されています。
アクセル・リュッカー

BMWグループ
水素燃料電池プログラム・マネージャー

6.

水素燃料電池技術は、将来どのような役割を果たすでしょうか?


BMWが確信しているのは、将来、水素燃料電池自動車がBEV(バッテリー式電気自動車)とともに持続可能なモビリティに多大な貢献を果たすだろうということです。ただし、必要な水素インフラが整備され、水素の価格と車両の価格が下がることが条件です。これらの条件が満たされれば、水素燃料電池自動車は、ユーザーのドライビング習慣に柔軟に対応するゼロ・エミッション技術となることでしょう。

大手エネルギー、輸送機器、産業の企業によるグローバルなイニシアチブ である水素協議会 (Hydrogen Council)もこのことを確信しています。同協議会は、水素を燃料電池自動車における持続可能な駆動システムのためだけではなく、暖房、電力、産業のためのクリーンなエネルギー源として考えています。

水素燃料電池技術: より豊かな選択肢のために。

モビリティに関しては、ドライバーによって要求や必要性が異なります。BMW AGのCEOであるオリバー・ツィプセはこれについて次のように語っています。「私たちにとって最も重要なのは、お客様が将来どのような駆動力および技術を求めているかということです。そして、最大限に気候を保護しながら、その要求をどのように実現するかです。」

内燃エンジンから完全電気自動車、プラグイン・ハイブリッド・カー、そして水素燃料電池自動車に至るまで、BMWがさまざまな駆動コンセプトの研究および開発に挑み続けてきた理由は、まさにそこにあるのです。

イラスト:シプリアン・ロスリンガー
撮影:ベンジャミン・ロス
記事:ニルス・アーノルド

伊勢谷友介氏が代表を務める「REBIRTH PROJECT」コラボアイテム を100名様に。

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