エルヴィスの愛車BMW 507 – 伝説が蘇る

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エルヴィス・プレスリーはキング・オブ・ロックと称される以前、ドイツのバート・ナウハイムで兵役中、大恋愛を一度ならず二度、経験しました。相手はのちに妻となるプリシラ、そしてBMW 507。エルヴィスが所有していたドイツのスポーツカーは、長いあいだアメリカの納屋に置き去りにされていましたが、その後、ミュンヘンで完全に復元されました。

2021/4/28

1958

物語は1958年12月、ドイツのフランクフルトで始まります。エルヴィスは兵役中に、中古のBMW 507を手に入れました。

本人の希望によりエンジン交換が行われ、ハンス・シュトゥックがヒルクライム・レースで優勝したときのエンジンから、当時、パワフルで評価の高かった軽量のV8シリーズ150 psエンジンに入れ替えられました。それは、センセーショナルな瞬間でした。世界一のロックスターがドイツのロードスターに乗り込んだのですから。このクルマが持つ魅力は、プレスリー以外のスターをも惹きつけました。初代ボンド・ガールのウルスラ・アンドレスに、フランス人俳優アラン・ドロン。

しかし、この車を伝説にしたのは、他の誰でもなく、エルヴィス・プレスリーでした。

「キング・オブ・ロック」の歴史的な大成功は、新たな価値観を根づかせ、それまでの数多くの慣習を180度変えました。BMW 507も同様の影響力を発揮し、現在も自由の象徴として認識されています。エルヴィスはすぐに、ロードスターの色を塗り替えました。チョークホワイトのボディに女性ファンたちのキスマークが毎日つけられていたので、赤に変えることにしたのです。

1960

兵役が終わった1960年、エルヴィスは赤いスポーツカーを故郷へ持ち帰ることにしました。その後まもなく、BMW 507はニューヨークのクライスラー社のディーラーにより「プレスリーの愛車」と宣伝され、3,500ドルでホットロッド愛好家のラジオDJ、トミー・チャールズに販売されました。

トミー・チャールズはシボレーV8 ボルグワーナー・エンジンとシボレーのリヤ・アクスルを再装備しました。BMW 507はさらに2人以上の所有者を経て、1968年、カリフォルニアの航空技術者ジャック・カスターの手に渡りました。しかし、カスターはこの車にあまり乗らず、1974年ごろまで保管していました。

2014

それからおよそ30年後、サンフランシスコ近郊にあるジャック・カスターのかぼちゃ畑にある納屋に置き去りにされたロードスターを発見したのは、自動車ジャーナリストのジャッキー・ジュレでした。残念ながら、BMW 507本来の輝きは、この赤いクルマから消え去っていました。

エンジンや、シャシーの重みを支える重要な部分がなくなっていたのです。しかし、スーパースターの証である車両識別番号70079がついていたことから、これがかつてプレスリーが所有した伝説のロードスターであることは明らかでした。

故郷への帰還

ジャック・カスターと、BMWの復元専門家クラウス・クッチャー、アクセル・クリンガー - ケーンラインが時間をかけて話し合いを重ねた結果、BMW Group Classicはようやく、ドイツのミュンヘンでBMW 507を元の状態へ復元する許可を取りつけました。この車を「最高級のスクラップ」と呼ぶクラウス・クッチャーにとって、それは最高の瞬間でした。

この車は長いあいだ行方がわからず、元の車両識別番号も不明でした。それがいま、私の目の前にあるのです
クラウス・クッチャー

BMW Group Classicの車両復元および自動車国際貿易の専門家

キング・オブ・ロックの愛車が生まれ変わる

残念ながら、BMW 507に利用できる交換部品は現在、ほとんど残っていません。このため、復元プロセスの第一歩は、なにがあるのか、そしてなにがないのかを確認することでした。はたして、どのパーツが純正品なのでしょうか?どのパーツが復元可能で、どのパーツをBMW Group Classicで再生産する必要があるのでしょうか?

幸運にも、ボンネット、ドア、装着部品などの大型のコンポーネントの多くが純正品だと判明しました。解体にはほかの自動車よりかなり長い時間を要しましたが、これは、塗装をはがすためにアルミニウムのボディと下側の鋼板を分離しなければならなかったためです。 
シャシーと車両内部も解体されました。そして次のステップは、ボディ下部を酸に浸けることでした。

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復活前のエルヴィスの愛車BMW 507
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ジャック・カスターがエルヴィスの愛車BMW 507のキーをクラウス・クッチャーに渡す
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復活前のエルヴィスの愛車BMW 507、フロント・ビュー
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エルヴィスの愛車BMW 507のスピードメーターと車両内部のトリム
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BMW Classicの作業場に運び込まれたエルヴィスの愛車BMW 507のボディ、フロント・ビュー
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BMW Classicの作業場にあるエルヴィスの愛車BMW 507のシャシー
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完全に塗装がはがされたエルヴィス・プレスリーの愛車BMW 507
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再塗装前のエルヴィス・プレスリーの愛車BMW 507
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塗装をはがしたあとも、60年分の錆がまだ残っていたのです。長い年月を示すこの錆は、リン酸を使用した剥離剤によって処理されました。しかし、腐食による大きなダメージを完全に修復するには、数多くのパーツを丸ごと交換しなければなりませんでした。

古い時代のエンジン

驚いたことに、エルヴィスのために設置されたエンジンは見つけることができませんでした。このため、バイエルンで製造された軽量のV8シリーズ150 ps/3.2リットルのかわりに、シボレーの大排気量エンジンが使用されました。

このエンジンを周辺の新旧コンポーネントにフィットさせることは、最も難しい挑戦のひとつでした。クランク・ドライブから給油まで、あらゆるものに細やかな対応が求められました。その結果、1957年のBMW 507の純正品仕様にできる限り厳密に従った古い時代のエンジンは、新品同様の輝きを得ました。
エンジンのみならず、車両内部からなくなっていたダッシュボードやシートなども、仕様に厳格に合わせるため、新たに製造しなければなりませんでした。レザーシートの復元だけでも作業に何日も要しました。フェルトを差し込み、手縫いし、白いリネンでカバー。その後、純正品のレザー・グレインにマッチしたレザーでカバーされました。

専門家の手によって各コンポーネントを細部までまったく同じように再現し、純正品の交換パーツを探して既存のエレメントを復元するために、2年の歳月がかかりました。チョークホワイトの塗装でさえも – エルヴィスの赤ではなくて – 純正品の仕様に従って調合されました。そして、ついにすべてが元に戻ったのです。

2016

完全復活した姿が披露されたのは2016年8月21日、カリフォルニア州ペブル・ビーチで開かれたコンクール・デレガンスでした。

生産数が少なかったため(1956~1959年にわずか254台 )アルブレヒト・グラフ・フォン・ゲルツによって設計されたロードスターは、デザイン上のアイコン的存在で、200万ドル超の価値があるコレクターズ・アイテムとされています。BMW 507の華々しい帰還は、1968年のエルヴィス・プレスリーのカムバックほど奇跡的ではありませんが、それでも十分にユニークな物語といえるでしょう。

BMW Z4は、ディティールのすべてに、BMWの新しいデザイン言語を採用しています。
アドリアン・ファン・ホーイドンク

BMW Group Designのトップ

ちょうど1年後に、同じペブル・ビーチのコンクール・デレガンスでグランドデビューを飾ったのが、BMW Z4です。このクルマはBMWの歴史の最先端に位置しながらも、魅惑的なロードスターの歴史をロジカルに受け継いだ存在といえるでしょう。

2018

それからさらに1年後、BMWはペブル・ビーチのオートモーティブ・ウィーク2018にて、新しいBMW Z4 M40i First Editionを発表しました。この期間限定販売のエディションは、いつか完璧な保存状態のコレクターズ・アイテムとして、ペブル・ビーチのコンクール・デレガンスで表彰されるかもしれません。