フォトグラファーたちがロール式のフィルムを現像するために暗室で長い夜を過ごしていた時代、マッカリーはインド、パキスタン、アフガニスタンへバックパックで旅をし、ここからスターへの階段を登り始めました。
1984年にロシアがアフガニスタンに侵攻したとき、マッカリーはアフガニスタン難民たちの手を借りて入国に成功。侵攻軍の残虐行為と混乱の最中に取り残された人々を記録しました。そのうちのひとつ「アフガンの少女」が『ナショナルジオグラフィック』誌1985年6月号の表紙を飾り、マッカリーはビジュアルでストーリーを語る現代の傑出したフォトグラファーとしての評価を不動のものにしました。


時代のアイコンと呼ぶべきマッカリーの約40年間のキャリアを駆け足で振り返ってきましたが、マッカリーは今回、ふたたび旅に出ました。目的地はスコットランドのハイランド。穏やかで、荒々しく、御しがたい自然を兼ね備えた土地です。マッカリーがキャリア初期に訪れた、アフガニスタン難民キャンプからははるか遠く離れた旅路です。それでも、マッカリーとのインタビューにのぞんだ我々は、この土地にもエキサイティングなことがいくつかあると次第に気づいたのです。
「私にはスコットランドの血が流れています」と、マッカリーが明かしてくれました。「祖先たちがおそらくは羊飼いや農耕をしながら、ここでどう暮らしていたのだろうと想像するのは、感慨深いですね。」
マッカリーは大西洋の果てにある豊かで開けた平原の風景を記録におさめるため、ここへやって来ました。その旅に同行したのが、BMW iXです。快適さとパフォーマンスを追及したSAV設計のこのモデルは、風と天候に左右される人里離れた島々を巡るときの最適な相棒です(➜ 詳しくはこちら:ロードバイクとBMW iXでアルプスを横断する※リンク先は英語です)。
「この高地がとても好きなんです」この旅に出た動機について尋ねられたマッカリーは、そう答えています。「気候やコンディションに予測不可能なところがあり、なにが待ち受けているのか、楽しくてたまりません。息を呑むようなことが起きるんです。」


写真は旅に連れだす必要があると思います。私たちになにかを感じさせるのです。笑い、幸福、悲しみ、喜びを。
このような地形はチャレンジももたらすという考え方もできるかもしれません。こうしたプロジェクトにおいて正しい機材を選ぶことの重要性が、フォトグラファーならわかるはずです。ところが、マッカリーのアプローチは新鮮味を感じさせるほどリラックスしたものでした。
「旅はできるだけ身軽にしたいんです」とマッカリー。「持ってきたのはレインコート、手袋、帽子、三脚、ハードドライブ、そしてライカを数台。普段から使っているレンズの種類も、24-90ミリと16-35ミリの2種類です。ずっと小さいレンジで撮ってきました。これで、私の見たものすべてがカバーされます。」
マッカリーはじつに多くのものを見てきました。7大陸すべてを訪れて撮影を行い、好きな場所はイエメン、エチオピア、ブータン、ヒマラヤ。


文明の外縁にあるこうした土地と、風の強いうねった丘陵地帯スコットランドは、多くの点で大きくかけ離れています。なぜスコットランドなのでしょうか?この土地のなにが、熟練フォトグラファーを北へと惹きつけるのでしょうか?答えは簡単ですが、文字通りパワーをもたらすもの。それは風車です。
「私たち人間は代替となるエネルギー源について考える必要があります。(➜ 詳しくはこちら:BMWが設計するすべての自動車はサステイナビリティ)こうした風力発電公園のような」と、マッカリーはこの旅のメインテーマである、厳粛さを漂わせる白い塔について語っています。この塔はマッカリーの構図のなかに永遠に収められることとなるでしょう。「こうした意味で、スコットランドのようにうってつけの場所が世界にはあります。そうした土地を今回訪れて撮影できることを非常にうれしく思います。」


突き詰めれば、代替エネルギーの使用は適応力のゲームであり、既知のものについて再考することだといえます。適応力はマッカリーが長いキャリアを通じてプロとして人として成長する上でも、必然的に重要な役割を果たしてきました。同じことがスコットランドにもいえます。BMW iXはマッカリーとクルーたちにとって、ただの移動の手段に留まりません。風景のなかにある姿をレンズにとらえて記録する被写体でもあるのです――人と土地をファインダーに収めて名を知らしめたフォトグラファーにとって、これは新たな挑戦です。
「荒涼とした美しい自然というコンテキストのなかで自動車を提示したいと思いました」とマッカリーが課された仕事について語ります。「このように美しい物体を、このような壮観な風景のなかで撮影できることには、喜びを感じます。写真は旅に連れだす必要があると思います。私たちになにかを感じさせるのです。笑い、幸福、悲しみ、喜び……そして風景を見た人に、ここへ行きたい、と思わせる必要があります。写真は興味を惹きつけ、ドラマティックでなければならないのです。息を呑ませるものでなければ。」
瞬時に息を呑ませる。おそらくそれこそが、マッカリーと彼が撮る写真を際立たせているのでしょう。著名なカメラマンたちの中でも、彼の名前には、彼の人間のもろさやドラマを捉えるセンス、独特の作風を瞬時に想起させる特別な響きが依然としてあります。本人はためらいがちに認めているにすぎませんが、これは偶然ではないのです。
キャリアの成功について尋ねられたとき、マッカリーはこう答えました。「普遍的なストーリーを語る写真を撮ることを目指してきました。人が反応するのは、そこに感情をかきたてる要素があるからだと思います。」
しかし、もっと重要なものは、いわゆるやり遂げる力、根気の良さ、そしてなによりも好奇心だとマッカリーは強調しています。
「自分がしていることに、愛着を持たなければなりません」とさらにつけ加えています。「とはいえ、結局はハードワークと膨大な情熱が必要なのです。」
欧州の果てにある大自然への旅もまた、ハードワークだったと思われるかもしれません。光と影、天候と時刻。完璧な瞬間を求めて生身の人間がカメラと三脚を携え、次の頂上を目指して歩くには、道は歩きづらく、条件は厳しいものでした。このような環境下では、多くの人が失敗に終わります。こうした意味では、期待しすぎないほうがいいのだとマッカリーはいいます。
「オープンマインドでいること、そして準備しすぎないことをつねに意識しています。旅をするときは訪れる土地の基本知識を押さえておきますが、これから行く場所について先入観を持ち、そのせいで失望したくありませんから。」
それでも上手くいかなかったら?なにも撮れないときもあることを、マッカリーは誰よりも知っています。物事が上手く運ばない、という日もあるのです。
社会の周辺で雑誌の表紙になる被写体を求めているとき、悪天候のなか機材を慎重にセットアップして黄金の時間帯に訪れる魔法の瞬間を待つとき、あるいは、今回のように、スコットランドのハイランドで白い巨塔の下で強風に見舞われるとき。そんなときは、たかが写真なのだと心のどこかで思うことが、役立つのかもしれません。
そこにこそ、マッカリーの写真を大きな成功に導いた人間の真実は写真とはまったく別のところにある、ということが示唆されているのかもしれません。それは旅自体の喜びや旅がもたらす喜びといった、シンプルなものなのかもしれません。
「いちばん幸せを感じるのは、広大な自然のなかにいるときです。そうした場所にいて、ひとりで耳をすませ、周囲を見回すことができる。この素晴らしい世界に生きていることに感謝している瞬間です」とマッカリーは語ってくれました。「それ以上に素晴らしいことはありません。」
フォトグラファーのスティーブ・マッカリーがサポート役のクルーたち、そしてBMW iXと共に、スコットランドの厳選された数々の場所を訪れました。今回訪れた場所を紹介します:
アラデール自然保護区:賞を授けられた場所であり、『ナショナルジオグラフィック』誌のベストオブザワールド:2021年以降に再注目されるべき自然6選に選ばれました。私有地内に宿泊施設があり、植林活動や泥炭地の回復、若者向けの野外学習、数々の野生動物プロジェクトなどのアクティビティやイベントが用意されています。
ノバーウィンドファーム:ノバーにある家族経営の土地で、活況を呈するハイランドの入口です。20,000エーカー超の敷地で農業、林業、狩猟、漁業が営まれ、現在では代替エネルギー産業が進出しています。
ウィヴィス・エステート:水力発電設備を所有する家族経営のユニークな土地で、発電施設は特に温水スイミングプールに利用されています。
クラアチャン水力発電:1950年代に「山間部の空洞」に建設された水力発電貯蔵施設で、グラスゴーに大量の電力を直接供給しています。
記事: David Barnwell; 写真: Steve McCurry; Robert Brady, 動画: Robert Brady; BMW