中田英寿がBMW M8と行く、石川の旅。花鳥風月を描く加賀友禅という“芸術”。

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中田英寿が、世界に誇る日本の本当にいいものとその作り手を巡る旅、‘にほんもの’。 現地に行かなければわからない、素晴らしい日本をご紹介します。

2021/2/24

にほんもの

その訪問着は、まるで1枚の絵画のように美しく、そしてえもいわれぬ色香を感じさせた。明るく輝く半月に、色とりどりの植物。それでいて、派手さよりも気品が漂う。季節はいつなんだろう。どこから見た月夜の景色なんだろう。そしてこんな着物が似合うのは、どんな女性なんだろう。金沢市の加賀友禅作家・柿本市郎さんの作品を見て、その背景にある物語に思いをはせずにいられなかった。

「加賀友禅は京の扇絵師によって、加賀に伝えられ、発展していきました。京友禅は図案柄が多いのに対し、加賀友禅は花鳥風月を描くのが特長です」(柿本さん)

石川県指定無形文化財に指定されている加賀友禅作家・柿本市郎さんの訪問着。妖艶に光を放つ半月と数多の植物の美しさは、着物の柄の範疇を超えた芸術性を感じさせる。

柿本さんは、人間国宝の木村雨山に学び、加賀友禅の世界へ。昭和42年に加賀友禅作家として独立すると、その繊細かつ大胆な作風が高く評価され、数々の賞を受賞。平成6年に石川県指定無形文化財に指定されるなど、80歳を超えた現在でも第一人者として、活躍を続けている。

「加賀友禅の基本はスケッチ」。柿本さんは、80歳を超えた現在でも兼六園などに足繁く通い、自然に目を向け続ける。「最近は名も知れぬ雑草に目がいきます」。

「花鳥風月を描くための基本は、スケッチです。そこにある美しさを描かなければならない。最近はコンピュータでも簡単に絵柄を描けるようになりましたが、加賀友禅の師は自然。さいわい自宅が兼六園まで歩いていける距離なので、いまでも散歩がてら出かけてスケッチをしています。土から生えている草花を描かなければ本物にはならない。昨日見た草花を今日も見る。その変化に四季を感じることもあります。だから花屋の花では駄目なんです。若いころは、菊とか牡丹とか立派な花にひかれましたが、最近は名も知れぬ雑草に目がいきますね。雑草の秘められた強さ、美しさを友禅に描けないかと考えています」(柿本さん)

見た目の美しさだけでなく、そこにある生命を描く。加賀友禅の特徴的な技術のひとつに「虫喰い」と呼ばれるものがある。植物の葉に虫が食べたようなあとをあえて表現することで、写実性を高めるのだという。

「加賀友禅の場合は、すべてひとりで行います。ひとりがデザインを考え、絵柄を描き、そして染める。色の配合も自分で決めます。だからどんなに素晴らしい作品ができても、二度と同じものはできません」

「京友禅とは絵柄だけでなく、作業工程も異なりますよね?」(中田英寿)
「そうですね。京友禅は分業になっているので、デザインを決める人、絵柄を描く人、色を入れる人が別になっています。でも加賀友禅の場合は、すべてひとりで行います。ひとりがデザインを考え、絵柄を描き、そして染める。色の配合も自分で決めます。だからどんなに素晴らしい作品ができても、二度と同じものはできません」(柿本さん)

仕事場を訪ねると、色とりどりの染料と絵筆が並んでいる。「染める作業をやってみませんか」とうながされ、中田も筆をとる。紙にペンならまだしも、布地に筆。1枚の花びらのなかで、色をぼかし、それが生き生きとした“表情”を生み出すのが加賀友禅。どんなに集中して作業しても、初心者がはみ出さないように色をつけ、上手にぼかすのは至難の業だ。

「気をつけているんですが、どうしてもはみ出してしまいます。筆にどのくらい力をいれればいいか、その加減が難しいですね」(中田)
「少しくらいはみ出してもいいんですよ。私もまだまだその領域には達していませんが、木村雨山先生の作品を見ると、色がはみ出したりもしていて、でもそれが植物の生命力を感じさせてくれるんです」(柿本さん)

中田英寿も筆を手に加賀友禅の染めに挑戦する。あえて葉の虫くいを表現する「虫喰い」や色をにじませる「ぼかし」など加賀友禅独特の技術は、絵柄の写実性を高めるためのものだという。

そういって見せてくれた木村雨山の掛け軸に描かれていたのは、筍や茄子、蕪など。一見、子どもが描いたようにも見える大胆な絵付けだが、確かにそこには力強い生命力のようなものが感じられた。

「いつもこんなふうに描きたい、描けるようになりたいと思っているんですが、なかなかこの領域には達せません」(柿本さん)

温和な笑顔でそう謙遜するが、柿本さんがつくる加賀友禅も、もはや芸術の粋に達している。ピカソに後継者がいないように、モーツアルトに後継者がいないように、誰も彼のあとを継ぐことはできないだろう。だが、加賀友禅の文化は次世代、またその次の世代へとつないでいくことはできる。柿本さんが木村雨山から受け継いだ加賀友禅の文化が、これからも長く受け継がれていってほしい。

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