にほんもの
日本書紀や万葉集に出てくる倭姫命伝説では「美し(うまし)の国」と記述が残され、古の時代から”美しい国““満ち足りた良い国”と表現されていた三重県。
約1000㎞にもおよぶ南北に長い海岸線や、鈴鹿山脈や養老山地、紀伊山地に代表される山々の美しい表情はもちろん、その豊富な自然が生み出す山海の幸に恵まれた理想郷とも思える環境が豊かな食文化を支え、満ち足りた良い国として現在に受け継がれている。
その食文化と共に発達した工芸も、伊賀焼、萬古焼といった陶芸から鋳物、刃物など様々なものがある。
「美しの国」三重の中でも、多様な文化や生活の影響の中で生まれた“忍術の里”として世界的にも有名な伊賀の地で、世界50か国以上を旅しそこで感じたことを表現しながら、この地に腰を据えて土と対話している城進さんの工房を訪ねた。
中田は日本すべての都道府県を巡り、世界も100か国以上を旅した一人の人間として、世界50か国以上を旅した陶芸家に興味があったようだ。
「何年くらいかけて50か国を回りましたか?旅に目的はありましたか?」(中田)
「2年半かけて回りました。京都の大学を出て陶芸を学び、1年ほど弟子入りした後にアジアからスタートしてヨーロッパ方面へ。アフリカも行きました。いろいろなものを見たかったという好奇心から始まった旅です。陶芸で生きていこうと決めていたので、焼き物が盛んな土地には必ず行き、市場で見たものを作っている場所に押しかけ、言葉はあまり通じないので身振り手振りを交えて、一緒に作品を作ったりもしました。しかし日本で手に入れた技術だけでは全く対応できず、何でもできると思っていたのですが… おかげでいろいろな技術を学ぶことができました。」(城さん)
アジア、中近東、ヨーロッパ、アフリカを旅して、伊賀で築窯した城さん。帰国当初、築窯する場所にこだわりはなかったが、知り合いの伝手でこの土地に来たという。それから20年。この土地にすっかり魅せられ作品を創り続けている。
「伊賀は立地が良く、またすぐに使える土も手に入りやすい環境なので陶芸をするには最適な場所なんです。古琵琶湖層から採れる耐火度が高い伊賀の土、強度があり直火にも十分耐えられる土の粒子が細かく耐水性のある萬古焼の土も手に入ります。」(城さん)
三重県を代表する焼物で全国的にも名が知られている萬古焼に使われる土は、その成分に特徴がある。約4割も含まれているリチウム鉱石が強度と耐熱性を生みだしているため、昔から炭火や直火に用いられ、現代ではレンジにも使うことができる。
城さんが作っている作品は、鉄絵、粉引き、焼きしめ、アメ釉、⽩磁など多種多様。旅をしてきた経験と感覚を活かしながら「今の暮らしにあったもの」を創っている。
数々の作品が工房内に置いてあるが、中でも萬古焼きでもなく伊賀焼でもない独特な色合いの鉄絵の作品がまず目にとまる。
「この作品の”色“はなにで出しているんですか」(中田)
「象嵌(ぞうがん)という技法を使って、弁柄で出しています。弁柄は焼き方によって茶色や黒になります。この鉄絵の器は西アフリカで出会ったドゴン族の泥締めをモチーフにして作りました。派手過ぎてうるさい、和食に合わないと言われたこともありましたが、使ってみると意外と見栄えが良く合うようで、評判があとからついてきました」(城さん)
作品が並んでいる棚は、急須や茶わんといった食器から水差しや一輪挿しといった花器が綺麗に並んでいたが、その中に面白いものを見つけた。それは、伊賀焼にも萬古焼にも見かけない地球儀だった。中は空洞で、型を使いタタラを貼り合わせて創りあげるこの地球儀、使うことはできないが家のインテリアとして置く方が多く、隠れた人気作品だという。
世界50か国以上を巡り、様々な文化に触れてきた城さんが、多様な文化の影響の中で生まれたこの伊賀の地で創る地球儀に触れてみると、作品を通して城さんが何かを訴えかけているように感じた。多様化する時代の中で、良いものは取り入れつつも自分の信念を持つことの大切さ、自分を見失わず自分のペースで生きていくことを。
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