匠とクラフツマンシップの融合と未来。

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中田英寿✕クリスチャン・ヴィードマン BMW JAPAN社長「匠とクラフツマンシップの融合と未来」。

「BMWと日本の名匠プロジェクト」第1弾として発表された国内わずか3台の特別限定車「BMW 8シリーズ グラン クーペ KYOTO EDITION」。至高の1台を前に語り合う中田英寿とBMW JAPANクリスチャン・ヴィードマン社長。日本の伝統工芸の匠とドイツのクラフツマンシップの融合は、どんな未来を生み出すのだろう――。
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今日はぜひ中田さんに見ていただきたいクルマがあるんです。日本特別限定3台の「BMW 8シリーズ グラン クーペ KYOTO EDITION」。いちばんの特長は、漆芸家の岡田紫峰さんによる漆塗り蒔絵螺鈿細工があしらわれたセンタートリムです。見ればおわかりいただけると思いますが、すべて丁寧な手仕事で仕上げられています。(ヴィードマン)

クルマと蒔絵、BMWと漆というのは、すごくチャレンジングな組み合わせですね。僕は普段BMWのセダンに乗っていますが、センタートリムが違うとインテリアがちがった雰囲気に感じます。そもそもどうしてこの限定車を作ろうと思ったのですか?(中田)

ドイツやBMWの持っている価値をどう日本に繋げるかということから考えていきました。BMWは104年の歴史を有する企業で、唯一の信条は、最高の車を生産することです。完全性の追求、0.1mmまで妥協しないDNA。デザイナーからエンジニア、R&Dも、すべて同じ思いを共有しています。それを日本に伝えるために、BMWのクラフツマンシップと日本の匠をかけあわせたてみたらどうだろうと考えたのです。BMWでは、妥協が一切ありません。この8シリーズグランクーペでは、ボディ生産過程においてプレートを6度も特別にプレスすることによりこの絶妙な造形と流線を実現しています。色はどうする? “アズライトブラック”にしました。中田さんならおわかりですよね。日本の伝統工芸でよく使われる色です。(ヴィードマン)

藍色ですね。(中田)

そう、とても日本らしい、繊細な美しさを持つ色です。塗装はドイツで行われましたが、色の原料は日本から取り寄せています。インテリアのレザー部分はメリノレザーで、ドイツの高原に位置する村から来ており、質が高い1枚革でできています。その革でドイツの職人が手作業で車内の樹脂部分を覆いました。そこに岡田さんがセンタートリムに「駆けぬける風」をイメージした漆を施してくださったおかげで、まさにクルマそのものがラグジュアリーな1つのアート作品となったわけです。(ヴィードマン)

京都を代表する漆芸家である岡田紫峰氏が手掛けた漆塗り蒔絵螺鈿細工が施されたセンターコンソール。 また、トリムと同じデザインを施した蒔絵螺鈿細工の専用キートレイも設定。もちろんすべてが手作業。まさに走る工芸品だ。

チャレンジングでユニークな取組ですね。BMWにとって、ラグジュアリーとはどういうものだとお考えですか?(中田)

美しく、完璧であること、そして常に進化していくことです。岡田さんとコラボレーションの話が持ち上がった際、車と漆、先端技術と伝統工芸、ある意味正反対の全く新しい試みに興味を持たれ、快諾してくださいました。漆の歴史をたどると、漆によって表現された黒がヨーロッパにも渡っています。いわゆるピアノブラックです。ヨーロッパでは当時なかった黒という塗料を、日本人が漆を使って表現していることを知りインスパイヤされ、どうにか似た色を開発したのが「ラカー」という塗料。その色を当時高級品であったピアノに使い、現代でも目にする黒いピアノが生まれたのです。そのような背景を理解して下さっている漆の名匠、岡田さんが彼もまた挑戦をしてくれたわけです。BMWの妥協のない車づくりに共感いただき、ご本人の非常に繊細な技術と美意識を素晴らしい形で融合してくださいました。非常に手間と時間がかかっています。だからこそこのクルマは、ユニークであり、新しく、そして美しい完璧なものとなったわけです。中田さんにとってのラグジュアリーもお聞きしたいですね。 (ヴィードマン)

私にとってラグジュアリーは、その価値を理解するための知識を持っているということです。「美しい」と言うことがわかる、美しいデザインだ、美しいインテリアだ、美しいプロダクトだと感じるためには、正しい知識、深い理解がなければならない。それらを持ったうえで、さまざまな物事の価値を正しく感じることができたら、それこそがラグジュアリーだと思います。(中田)

確かにそのとおりですね。クルマもその背景にある技術、それを実現するための努力を知ることでより深くラグジュアリーを感じることができると思います。 (ヴィードマン)

中田英寿は、普段からBMWを愛用。「センタートリムがちがうと、まったくちがう雰囲気になりますね」。 工芸を愛する中田だからこそ、その技術の高さ、価値が理解できる。

今回のような日本の伝統工芸とのコラボレーションは、これからも続くのですか?(中田)

はい、続きます。この車は国内限定3台で、我々の新しい試みでもあるオンライン販売では、即完売となりました。今回はKYOTO EDITIONですが、日本の匠へのリスペクトが表現されているシリーズが続くと思っていてください。発表は12月を予定しています。次も非常に特別でエキサイティングです。(ヴィードマン)

今回は岡田さんだけでなく、クッションには西陣織を採用されていますね。こういったコラボレーションする名匠たちはどうやって探しているのですか?(中田)

我々の本プロジェクトの方向性に合致する、唯一無二の技術をお持ちの名匠を探し出し、アプローチしていきます。大切なのはBMWの妥協なきクラフツマンシップに共鳴していただけること。もちろん簡単ではありません。関係構築も非常に重要ですし、一般的なビジネスとは異なるルール、時間の流れがあるように感じます。(ヴィードマン)

彼らにとって、工芸とは仕事ではなく生き方、生活そのものだったりします。彼らは、何百年も、時には千年といった長い時間、伝統を守っていますから。(中田)

その技術を習得するための想像を絶する努力、妥協なきこだわりは敬意を表します。彼らの持っているすばらしい技術は国内外問わず、より多くの人に知ってもらうべきです。(ヴィードマン)

先日、ある工芸作家と話した際、「もっと売りたいですか? 有名になりたいですか?」と尋ねたら、「うーん……」とあまり積極的ではない様子でした。作品をつくることだけに興味があり、販売やPRは二の次という人が多いのも事実です。ただ工芸の世界も若い世代を中心に変わってはきています。インスタグラムやFacebookなどSNSに作品を投稿して、海外から注文がきたりすることもあるそうです。(中田)

室内には老舗西陣織メーカー「加納幸」と、限定車のルーフライニングと同素材であるアルカンターラを使用したクッションを特別装備。上質な絹糸が車内でのゆったりとした時間に優雅さを加える。

そうですね、伝統工芸の世界も従来の商流ややり方に捕らわれず常に革新されていくと良いですね。中田さんの活動が少しずつ工芸の世界を広げていかれると良いですね。そもそも中田さんは、どうして工芸の世界に興味を持ったのですか?(ヴィードマン)

きっかけは、10年ほど前から日本のさまざまな地域を旅するようになったことです。日本の文化や伝統を知るために工芸だけでなく、農家や酒蔵、神社仏閣などを訪れました。そこで知ったのは、伝統工芸、農業、酒造など、数百年という非常に長い年月、その地に根ざした素晴らしい文化を守り続けている人がたくさんいるということでした。ただ長い間おなじ仕事をやっていると、技術力は上がる反面、周りの変化に気づかないという問題が起きます。それが先ほども話題になった日本の伝統工芸における、世間とのギャップです。素晴らしいものを作る技術は持っているのに、どうプロモーションすればいいのか、どう現代化させればいいのかというところが後回しになってしまうのです。(中田)

「BMWでクラフトフェアを開催するというのはどうでしょう?」(中田) 「それはエキサイティングですね!」(ヴィードマン社長)。この対談をきっかけに新たな展開が生まれそうだ。

中田さんはそういう工芸を取り巻く状況を変えたいと思っているわけですよね。先日、国立工芸館の名誉館長に就任されたそうですが、それもそういった思いから引き受けたのですか?(ヴィードマン)

そうですね。いまそのチャレンジの真っ只中です。私はフォーマットをつくり、顧客と、工芸作家を繋げようと思っています。アプリを制作したり、ウェブサイトを作ったり、ときにはラジオやテレビを使ってこの活動を広げています。顧客がモノの良さを理解するためには、情報が必要です。そして見る必要がある、また経験をすることも大切です。もし人々が情報もなく、知識もなければ、何にも興味を持つことはできないでしょう。なので、僕ができると思ったのは、彼らが良き顧客になるように、情報を届けること。そのためにもまずは工芸に携わる人たちのマインドセットを変える必要があります。私は、人間国宝から若い才能溢れる工芸家まで、彼らのマインドセットを変えることができれば、彼らは自分でプロモーションし始めるでしょう。そのためにもプラットフォームが必要なのです。それができれば、明るい未来が待っているでしょう。(中田)

我々としてもこの、BMWと日本の名匠プロジェクトを通じて、名匠たちのたゆまぬ努力、まさに美と技の究極を求めて作業される姿を目の当たりにし非常に心が動かされます。この本物のクラフツマンシップがより多くの方に共感頂けるのは非常に嬉しいことです。(ヴィードマン)

お互いがそういう思いなら、今後もっと色々できるかもしれませんね!多くの人が素晴らしい匠の技に触れることができる、伝統工芸のフェアを開催するのはいかがでしょう?!(中田)

とても素敵なアイディアです。私たちの全国ディーラーでは広い空間があります。ぜひそういった場にもなれば良いですね。我々は今後も、素晴らしい日本の匠の技とのコラボレーションを通じてより豊かな人生へのラグジュアリネスを提唱していきたいと考えています。。(ヴィードマン)

日本から原料を持ち込んで塗装されたというアズライトブラックの「BMW 8シリーズ グラン クーペ KYOTO EDITION」。 ベースモデルは、最高出力530psの4.4リットルV型8気筒ガソリンターボエンジンを搭載する「M850i xDrive グランクーペ」。
BMW M850i xDrive グラン クーペ。ゆとりに満ちた空間と息を呑むほどの美しさをたたえた、4ドア・スポーツカー。BMWの美学をもっとも刺激的な形で体現したデザインは、ラグジュアリー・スポーツカーにおけるまったく新しいデザイン言語を確立し、尽きせぬパワーと類稀な俊敏性を表しています。