至高の精確さを求めて。

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BMW 4シリーズのシャシーとハンドメイドの最高級ナイフ。この2つに共通するものは何でしょうか?それはどちらも、精確さを極めることで、非の打ち所のない完成度を追求しているという点です。BMWで4シリーズのドライビング・ダイナミクス分野を担当するマーティン・シュワルツはこの日、バイエルン州キームガウにあるMesserWerk社の工場を訪れ、創設者のルカ・ディストラーとフロリアン・ピヒラーに、自動車工学とナイフ製造に通じる点、そして量産のプロダクトとは一線を画すクオリティと技術について話を聞きました。

2021/1/25

作業場では火花が飛び散り、煙が立ち込め、金属や石炭、火の匂いがします。壁にはさまざまな道具とナイフ・ブランク(鋼材をナイフの形に削り出した状態のもの)が並んでいます。外は土砂降りですが、並んだ2つの窓から薄明かりが工場内に差し込みます。そこは、ルカ・ディストラーとフロリアン・ピヒラーが営むダマスクナイフ“MesserWerk”の鍛冶工場です。

ルカは、熱で赤くなった鉄片をならすようにハンマーで打ちます。素人には、それがいかに難しい作業か想像がつかないかもしれません。彼はそれを炎の中に戻した後、再びハンマーで打ちます。熱しては打ち、熱しては打ちを繰り返すのです。バイエルン州アシャウにあるこの工場で手作業により鍛造されるダマスクナイフは、360層もの鋼でできた極めて優れた品質を誇っています。その価格は小型自動車1台が買える額、あるいはさらに高価なものもあるほどです。ちなみに、アラブ首長国連邦のある顧客に依頼されて作った短剣は、約25,000ユーロでした。 

最高品質のナイフを作るには、細かい調整を何度も繰り返し、ひたすら丹念に仕上げていくしかありません。これは、ダイナミックな走りの要となるシャシーの開発にも同じことが言えます。BMW 4シリーズのドライビング・ダイナミクスを担当するマーティン・シュワルツは、シャシーと精巧なナイフの微調整における類似点を自分の目で確かめたいと思い、アシャウにあるMesserWerkの工場を訪ねました。

ゼロから開発されたダイナミクス

「BMW 4シリーズを際立たせているのは、ダイナミックなパフォーマンスに重きを置いた、独自の車両コンセプトです」とマーティン・シュワルツは説明します。「このモデルでは、最高水準のドライビング・ダイナミクスを実現するシャシーを提供したいと考えました。複数の要素で構成されるシャシーは、まさにナイフが形状、鋼、上質の木材および彫刻によって成り立っているのに似ています」。

「私たちのナイフは、非常に精巧な道具です。その製造に極めて精確な作業が必要なのは言うまでもありません」。仕上げられた刃を照明の下で入念に確認しながらフロリアン言います。精度が高ければ高いほど、摩耗も少なく完璧に機能するのです。ルカがそれに付け加えます。「たとえばポケットナイフの刃は研ぐことで材質が繊細になり、温度に反応するまでになります。そのため、部屋に置かれていたか、体温が影響する手の中にあったかでも違いが生じるのです。また、ポケットナイフは、単に開閉できれば良いというわけでもありません。車のドアに似ていて、隙間は最適でなければならず、何年経ってもスムーズに開閉できる必要があります。より優れた機能性を期待するのは、使い手だけではありません。私たちも常に高い完成度を追求し、ひとつひとつを妥協なく作り上げているのです」。

極小のネジに至るまで調整

では、極めて鋭い切れ味のステアリング・システムは、どのようにして生み出されるのでしょうか?「並外れたドライビング・ダイナミクスの前提には、並外れた遺伝子が必要です」とシュワルツは言います。シャシーの開発者にとってスポーティな遺伝子とは、低重心、ワイドなトレッド、完璧な前後重量配分、そしてボディとの接続部における高い剛性を意味します。「ネジの一つひとつに至るまでBMW 4シリーズ専用に調整されており、それはエアロダイナミクスに関しても同様です。3シリーズを単純に引き継ぐのではなく、独自のプロフィールを強化するためにあらゆる点を最適化しました」。

BMW 4シリーズでは、リヤのトレッドを23mm拡げ、重心を21mm下げ、車高を57mm低く設計。エアロダイナミクスを駆使して揚力を低減し、特定のブレーキとステアリングを統合しています。また、ボディ構造とシャシー接続部の剛性を高めてダイナミクスを研ぎ澄ますために、フロント・キャンバー角が強められ、フロント・アクルスおよびリヤ・アクスル周りのストラットを追加、ダンパーの設定も最適化されました。「“BMW 4シリーズの走りは、見た目の通りダイナミックで逞しく、極めてスポーティであるべき”という明確な目的のもとに、すべての開発が進められました。そして私たちは、これを成し遂げることが出来たのです」とシュワルツは言います。シリーズ車両のシャシーに高い精度を確保するには、開発の早い段階から精密な作業を行う必要があるのです。

シャシーの開発は、単に部品を組み合わせるだけではありません。「シャシーはスケッチの段階から、より精確に構成されている必要があります。ステアリング・システムでは、機械式時計の精巧な歯車をイメージしてください。ステアリング・ギヤ・ハウジング内ではスプロケット(歯車) とステアリング・ラックなど複数の機能が連動し合っています。小さい公差で大きな力を伝達するこの部分では、精確性が極めて重要になるのです」。そう語るシュワルツの横で、ルカは出来上がった刃をゆっくりと金属の容器に入れようとしています。この後、刃は独特のダマスク模様を出すため酸に浸けられるのです。

完璧への道に妥協はない

「どれほど多くのナイフが存在していても、この方法で作っているのは私たちだけです」とルカは断言し、こう続けます。「常に完璧さを求めるためには、少しクレイジーぐらいがちょうど良いのかもしれません」。そのこだわりは、加工に入るずっと前から始まっています。「ナイフ1本が完成するまでには、品質の良し悪しを左右する多くの段階が存在します。すべては、適切な材料を選定することから始まります」。ルカは同じ材料の中でのばらつきを見分けることもできるのだと、相棒のフロリアンは誇らしげです。

しかし二人とも、キッチンナイフとポケットナイフづくりにおいては一切の妥協も許しません。彼らの成功への道を拓くのは、本物であること、独占的でありながらも近接性があること、そして理にかなった哲学です。「不良品やB級品は決してありません。なぜなら、自分たちが100%納得のいくものでない限り外に出さないからです。たとえ、工程すべてを最初からやり直すことになってもです。」 

BMW IndividualがBMWオーナーの個人的な望みを叶えるように、MesserWerkも顧客それぞれのリクエストを具現化します。「形状やハンドルの素材はお客様が決めるもので、私たちはデザインのアウトラインだけを作っています」とフロリアン。しかし世界中の顧客がバイエルンへと足を運び、この鍛冶屋と個人的に交流できることを光栄に思っています。

「特にこの価格と品質のセグメントでは、明確なアイデンティティを持つブランドでなければいけません」とルカ。

そして、二人が絶対にしないことがひとつだけあるのだと言います。それは“ごまかすこと”です。顧客の要求が自分たちの信念と合わない場合には、丁重に断ります。しかし、例えばハーレーの部材をナイフのハンドルに使ったり、顧客の古い車の板バネをダマスク鋼に加工したりという、突拍子もないリクエストには応えたりもするのです。ですから、この工房で生まれたナイフがコレクター向けのレア物ばかりだったとしても何ら不思議ではありません。

感動に値するもの

「私たちのナイフは、ドリーム・カーに似ています。自分が本当に好きなものだったり、自分の感覚が刺激されるものならば、私はお金を出して買います。ナイフもただ美しいとか、高品質な木材や精巧な刃だけが魅力ではありません。工場を訪れた時に感じる煙の匂い、鉄の熱さや冷たさなど五感に訴えるすべてが、出来上がったナイフを箱から出した瞬間、一気によみがえる。そんなエモーショナルな体験です。やっと手にしたドリーム・カーに乗り込んで、ステアリング・ホイールを握り、エンジンを始動させる時と同じ感覚ですよね?」とルカ。

これに対しシュワルツは頷きながら答えます。「シャシーだけでなく車の魅力とは、どれだけ乗る人の感動を呼び覚ますことができるかだと思います。そしてこれを支えるのが、精確さです。例えば、アダプティブMサスペンションの制御式ダンパーは、数ミリ秒で特性を変化させなければなりません。油圧ダンパーはより迅速かつ精確に制御を行う必要があるのです。こうした精度の高さが、ダイナミックでスポーティな走りを心ゆくまで愉しむための、より安全で確かな性能をもたらします。そして、それこそが私たちの目指すもの、つまり顧客に提供したいドライビング体験なのです」。

THE 4

美しい挑発。

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