鍵を握るのは機敏さとハードワーク

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アーティストのジョシュア・ヴィーダスは次々に舞い込むプロジェクトに全力で取り組み、成功を収めています。そして今回、世界で1台のBMW X4 M Competitionハンドペイント・エディションを披露し、これに合わせて限定商品を発売することになりました。BMWはアーティストであり起業家でもあるジョシュア・ヴィーダスに、彼の原動力、そしてそこから導かれる場所について、話をうかがいました。

2022/1/18

うまい表現が見つかりませんが、ジョシュア・ヴィーダスにまず抱くのは、地に足がついているという印象かもしれません。

作品、インスピレーション、スタジオ、カリフォルニア州リアルトでの生い立ちについて、熱をこめて語ってくれるヴィーダス。軸がぶれない落ち着いた語り方ながら、物腰は穏やかさとはほど遠いものでした。ヴィーダスは鋭敏ではっきりした言葉を選び、質問に答えるまであまり時間を必要としません。すべてがそこに、彼の心の中のどこかにあり、我々はそれが外へほどけ出てくるのを待つだけ、という気持ちにさせられるのです。

ヴィーダスと初めて会ったのは、ミュンヘン郊外にある小さなタトゥー・スタジオでした。BMWのスペシャル・ゲストとして招かれたヴィーダスは、創作スタジオと自宅のあるカリフォルニアから遠路はるばる足を運んでくれました。そして、この機会を利用し、彼はすでに装飾がふんだんに施されている腕に、BMWのロゴという特別なタトゥーを加えることにしたのです。

つかみとった成功

これは偶然ではありません。ヴィーダスはBMWファンを公言しており、初めてミュンヘンを訪れたこの機会に、永遠に消えない思い出を持ち帰りたいと考えたのです。

「貧しい地区で育ったから、BMWを見かけるのはめったにない稀な出来事でした。BMWが通りかかるのを見かけたら、特別な日になる。今でも覚えていますよ」と、手首の真上に針を刺されながら、ヴィーダスが語ります。針で細い線が描かれるその場所に、ロゴが永遠に刻み込まれるのです。

「うちは移民一家です。母は看護師になるために勉強中で、父はトラック運転手。裕福とはいえない家庭でしたね。2000年代の初め頃に母が看護師学校を卒業したので、そこから収入が増えました。もっといい場所に引っ越すことになり、新しい車も買おうということになり、それがBMWでした」とヴィーダス。「嘘だろ、と思いましたね」。

初めてのBMWは2005 BMW 5シリーズ。それがきっかけで、子供のころから今に至るまで、BMWに夢中なのだそうです。32歳の現在、ヴィーダスはBMWを数台所有していますが、そのうちの1台、アルピン・ホワイトのBMW M3(E46)はBMWファンにとって夢の自動車です。

タトゥー・アーティストが針を置き、ヴィーダスの腕に刻まれたロゴのタトゥーが見えました。彼が選んだのは、黒一色のフラットな書体。ヴィーダスの作品とまさしく一緒で、ここにあらわれている大胆さこそが、ヴィーダスをストリート・ファッション愛好家やスニーカー・マニア、画廊主たちから強く求められる存在にしているのです。黒と白の支配、ここにヴィーダスのグラフィティ・アーティストとしての若き頃の活動が波及していることは明らかです。しかし、本人が明かしたところによると、初めてインスピレーションがひらめいたのは別のところ、幼少期に見たカートゥーンなのだそうです。

子供の頃、BMWを見かけるのはめったにない稀な出来事でした。BMWが通りかかるのを見かけたら、特別な日になる。今でも覚えていますよ
ジョシュア・ヴィーダス
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自分独自の世界

「小さい頃はカートゥーンの世界に夢中になりました」と、ミュンヘンの繁華街にある小さな庭で、ヴィーダスは語ります。「『ルーニー・テューンズ』や、『ザ・シンプソンズ』、『ガーフィールド』、などのあらゆる作品。スタイルと世界観がいっぺんでわかるのが、ものすごく好きでした。「『ルーニー・テューンズ』の世界の外にバッグス・バニーを引っ張り出しても、『ルーニー・テューンズ』のキャラクターだなとわかる。そのうちに、自分にも似たようなものがつくれるのではないかと考えるようになりました。これが僕独自の世界だと、すぐにわかってもらえるようなものを」。

それから早送りして話をすすめて現在。彼は思い描いていた通り、それを実現しています。最初のスマッシュ・ヒット作である、ナイキのエアフォース1シリーズ。彼は自分だけの特徴的なスタイルでスニーカーをペイントし、インスタグラムに投稿しました。この投稿が話題になり、電話が鳴り始めて、さほど時間がたたないうちに、気づけば彼はナイキのサブブランドであるジョーダンとコラボレーションする交渉をしていたのです。

「この時、僕は確信しました」と、ヴィーダスは振り返ります。「人々に本当に良いと思ってもらえるものを僕は作ったんだ、と」。

そこから先は、失速することはありませんでした。多作で精力的、比較できる存在が業界にいないというのが、ヴィーダスに対する評価です。その後も、彼は止まりません。その証拠に、ニューエラ、コンバース、フェンディ、そしてウールリッチといったブランドと組んだコラボレーションや仕事が続き、成功を後押ししています。ブランドとのコラボレーション以外でも、ヴィーダス個人の作品が世界中のコレクターたちから強く求められています。

人々に本当に良いと思ってもらえるものを僕は作ったんだ、と確信したのです
ジョシュア・ヴィーダス

常に動き続けること

ヴィーダスのフラットでグラフィックなモノクロ表現の何が、世界中のファンや批評家たちの心に響いているのでしょうか。「僕の作品が高く評価されているのは、これなら自分だって描けたはずだと思わせる何かがあるせいじゃないかと思うのです。それでいい気分になる人も不快になる人もいるだろうけれど、どちらにしてもそこにはエネルギーがある。そこが新しい」と、ヴィーダス。

それでもやはり、成功にはプレッシャーがつきものです。自分を常に改革し、探求心を保ち続けなければなりません。成功に酔い、単純なやり方がいつまでも通用すると考えてしまう、そんな罠にはまってしまうアーティストは大勢います。

「明日には自分が忘れられているかもしれない、ということは強く意識しています」と、ヴィーダスは語っています。「だけど、僕は同じことをずっとやり続けるタイプでもない。人々が望むものを理解するのが得意だから、もう十分やったと思えたら、次に進みますよ。BMWもそうですが、たくさんの人から次々と声をかけてもらい、コラボレーションさせてもらって、僕はとてもラッキーだと思います。だから、次にやることを見つけるのに苦労はしていません」。

明日には自分が忘れられているかもしれない、ということは強く意識しています
ジョシュア・ヴィーダス
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極めて特別なプロジェクト

ヴィーダスの最新プロジェクトはこれまで以上に大規模です。また、彼の生い立ちやBMWへの愛情を考えると、極めて特別なプロジェクトだと言うべきかもしれません。


ヴィーダスは数週間を費やして、彼独自の特徴的なスタイルで細かなハンドペイントを施し、ついにスペシャル・エディションBMW X4 M Competitionを披露しました。最高にユニークに演出されたこの自動車は、この世に1台しか存在しません。ヴィーダスは他にも、彼の腕に刻まれているBMWロゴを彼自身のスタイルで創作するコラボレーションも手がけています。これがインスピレーションの源となり、限定商品のラインアップが誕生しました。ヴィーダスのオンラインショップ限定で、BMWロゴがあしらわれたパーカーやTシャツ、マグカップ、ラグマット、バッジ、バンダナ、プレートなど、たくさんのグッズが販売されています。

ヴィーダスの非凡な才能がみてとれるのは、こういうところです。彼は新しいタイプのアーティストの代表として、駆け出しのころから、芸術表現と商業センスをうまく両立させるように努めてきました。さまざまなプロジェクトに次々と取り組みつつ、同時に、創作活動とビジネスの間を行ったり来たりして、夢を追い求める基盤を築いているのです。新しいプロジェクトはソーシャル・メディアや大勢のフォロワーたちの話題となり、影響力のあるアーティスト仲間たちが宣伝に一役買い、さらには昔ながらの口コミでも評判は広がっていきます。このようにして、現代的な波及効果をフル活用し、コレクター界の時代の空気をうまく読んで取り込む手腕は、見事としか言いようがありません。しかし、何よりも重要なのは、彼がゲームで一歩リードし続け、けっして後退しない術を心得ていることです。エネルギーを注ぎ込む新しいパートナーやプロジェクト選びは、慎重に行っています。これは現代のマーケットで成功するために欠かせない秘訣ですが、この点でヴィーダスは完璧な域に達しています。鍵を握るのは機敏さとハードワーク。彼はそれを何より理解しているのです。


ミュンヘンの庭で行われたインタビューは、そろそろ終わりに近づいています。このあと、BMWの拠点であるミュンヘンの特別招待客としてヴィーダスが参加するイベントが目白押しです。滞在最終日には、レーストラックで新しいBMW M3 Competitionと過ごす時間が待っています。ですが、お別れを告げる前に、ミュンヘンならではの儀式、ビールで乾杯する時間は残っています。我々は近場へ繰り出し、ボトルを掲げて、晩夏の太陽に乾杯しました。ヴィーダスは高揚感に包まれていました。今日という日に対して、これからやってくる日々に対して。そしてシャツの袖の下には、刻まれたばかりのBMWのロゴが、最新作に向けられた誠意の証としてそこにありました。すべてが始まった場所を忘れないための、親愛のしるしとして。

筆者:デイヴィッド・バーンウェル;写真:ハイスノバイエティ;クリスティアン・ロペス、セイ・ウオ;デイヴィッド・バーンウェル;撮影:ハイスノバイエティ、クリスチャン・ブラドル