隕石をクルマに乗せて-星に手を伸ばす

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インテリアには本物の隕石による装飾が施され、ボディ・ペイントは星空のように光り輝きます:BMW NIGHT SKYは、BMW Individualによって生まれたワンオフモデル。その製作に携わった人物を紹介します。そのうちのひとりは一流の天体物理学者です。

2021/4/27

その名前が示す通り、これは宇宙をテーマにしたクルマです。BMW Individual M850i NIGHT SKYは新たな可能性を探るための1台として、BMW Individualのエキスパートたちの数週間におよぶ手作業によって製作されました。メリノ・レザーのシートとルーフ・ライニングには天体柄のステッチがあしらわれており、センター・コンソールには星が散りばめられ、モザイク模様が施されています。そこには、45億年前に形成された本物の隕石が使用されています。

さあ、宇宙と時間の旅に出て、この夜空のような独特の美しさを放つ作品を手掛けた3人の人物に会いに行きましょう。

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センター・コンソールなどには、本物の隕石を素材にしたモザイクの装飾が施される。
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ドア・シルにも施された、鉄隕石でできたモザイク。
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センター・コンソールにはライトが埋め込まれ、アームレスト上に星空の輝きを織り成す。
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手で縫われたメリノ・レザーのシートとルーフ・ライニングにあしらわれた、鉄隕石のウィドマンシュテッテン構造の模様。
ミュンヘンのヨーロッパ南天天文台のプラネタリウムにて。天体物理学者のトーマス・ミューラー博士は「BMW NIGHT SKY」プロジェクトの科学顧問を務めました。

小惑星から自動車へと-天体物理学者は語る

数多くの天体を見てきた天体物理学者のトーマス・ミューラー博士は、52歳にして、ある隕石に強く惹き付けられました。「ムオニオナルスタ隕石は本当にとても特別なものです」とミュンヘンのマックス・プランク宇宙物理学研究所に所属する同氏は語ります。「地球上で確認されている最古の鉄隕石だからというだけではありません。鋭く、くっきりと見えるウィドマンシュテッテン構造の模様がこの隕石の美的価値を比類なきものにしています」

この構造の名前は、1808年に模様を発見したオーストリア人科学者アロイス・フォン・ベッカー=ウィドマンシュテッテンに由来します。「ウィドマンシュテッテン構造の模様は地球上で再現することができないため、なおさら魅力的です」とBMW NIGHT SKYプロジェクトの科学顧問を務めたミューラーは説明します。「液体の鉄・ニッケル合金が低比重下で、数千年にわずか1℃というスピードで冷えることによって、生み出される構造なのです」

この隕石素材で作られた部品がBMW NIGHT SKYの装飾に用いられています。25kgの隕石の塊から、わずか0.35mmの薄いプレートが切り出されました。BMW Individualのメンバーによって、センター・コンソールの装飾パネル、トランスミッション・セレクター・レバー、スタート/ストップ・ボタン等に、これらの極めて繊細な破片がモザイク細工としてはめ込まれました。「隕石の金属がそれほど繊細に切り出されて加工されるのを、それまでに見たことがありませんでした」とミューラーが感心して言います。すべて合わせて600gの隕石素材がBMW NIGHT SKYに組み込まれました。

簡単な天文用語集。隕石、流星体、あるいは、流星?

  • 小惑星:太陽の周りを回る小さな惑星。大きな物質の塊だったものの破片によって構成されることもある。原始惑星のクラスト(地殻・マントル)から放出された小惑星は、主として岩石で構成される。一方でコア(核)から放出されたものには、多くの鉄分が含まれる。直径1メートルから1,000キロメートル程度まで、さまざまな大きさの小惑星が存在する。

  • 流星体:太陽の周りを回る、小惑星より小さな物体。地球の大気に突入すると完全に燃焼し、いわゆる「流れ星」になる。

  • 流星: 流れ星が燃焼する際の光による光学効果。大型の光は「火球」と呼ばれることもある。
  • 隕石:地球の大気へ突入する際に、完全に燃焼せずに地表に到達する天体。

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鉄隕石から切り出された小さなモザイク片の厚みは、わずか0.35mm
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隕石素材に浮かび上がった、特徴的なウィドマンシュテッテン構造の模様。
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BMW Individualのエキスパートによって、手作業で組み込まれる隕石の素材。
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隕石素材で丹念に装飾が施されたスタート/ストップ・ボタンとiDriveレバー。

隕石と地球は、年齢が同じ

  1. 45億年前:後にムオニオナルスタ隕石のもとになる原始惑星が誕生。このことによって、隕石の年齢は、地球や太陽系全体の年齢と同じだと考えられます。

  2. 400万年前:コズミック・クラッシュによって原始惑星が無数の破片になって分散し、大小さまざまな小惑星が宇宙の中に誕生しました。

  3. 2億3500万年前:地球上では恐竜が栄えていましたが、直径10キロメートルを超える小惑星の衝突によって絶滅しました。

  4. 100万年前:その破片のうちのひとつが地球の大気に突入し、その一部がムオニオナルスタ隕石として地表に落下しました。

  5. 20万年前:ホモ・サピエンスの、確認されている最古の化石がエチオピアで出土。

  6. 1万年前:最後の氷河期が終了。

発見される隕石のうち、鉄隕石はわずか5%程度です。ムオニオナルスタ隕石の希少性の理由がここにあります。
トーマス・ミューラー博士

マックス・プランク宇宙物理学研究所の天体物理学者

ムオニオナルスタ隕石でできた素材は、元をたどると原始惑星のコア(核)からできています。地球のコア(核)と同様に、内部は融解した鉄とニッケルで構成されていました。ミューラーによると、ムオニオナルスタ隕石の希少性の理由がここにあります。発見される隕石のうち、鉄隕石はわずか5%程度で、他は、主に石でできた石隕石です。ムオニオナルスタ隕石の名前は、その発見場所(スウェーデンのラップランドに位置する)に由来しています。

ムオニオナルスタ隕石の表面にある腐食を基に、科学者たちによって地球に落下した年代が推定されました。元の物体は約100万年前に砕けながら大気圏に突入したと考えられています。小さめの破片は流れ星となって燃焼し、大きめの塊が隕石として地表に到達したのです。「1906年から現在までに40個ぐらいのムオニオナルスタ隕石が見つかっており、およそ15平方キロメートルの面積にわたって分布しています」とミューラーは説明します。この天体物理学者は一方で、隕石を探しに出掛けようとする人に注意を喚起します。「その場所は北極圏に位置しており、冬は大雪に見舞われ、夏は蚊にさされます」

BMW NIGHT SKYに再現された、ウィドマンシュテッテン構造の芸術的な模様に対するミューラーの情熱が衰えることはありませんでした。「元の素材の誕生は初期の太陽系にまでさかのぼります。大気圏外空間での創造過程について多くのことを科学者に示してくれます。しかも、その美しさを人工的に再現することはできないのです」とミューラーは語ります。
しかし、BMW Individualのメンバーは、科学技術の恩恵に預かり、3Dプリントを活用して再現することを試みたのです…。

黄昏時へのオマージュ、BMW NIGHT SKY:BMW Individualによる新たな可能性を探るための1台。
アレクサンダー・フィッカールは、ミュンヘンにあるBMWグループのアディティブ・マニュファクチャリング・センターで勤務しています。

驚くほど軽い部材-3Dプリントのエキスパートは語る

BMW NIGHT SKYでは、本物の隕石素材以外のさまざまな部材の装飾にも、3Dプリンターを使用して製作したウィドマンシュテッテン構造の模様が採用されています。

アレクサンダー・フィッカールは、ミュンヘンにあるBMWグループのアディティブ・マニュファクチャリング・センターにてテクニカル・インテグレーションを担当しています。「2010年にプラスチックと金属をベースにしたプロセスの導入を開始しました。最初は小規模な生産で使用し始めました」と31歳のエキスパートは説明します。BMWは、自動車メーカーとして世界で初めて、3D印刷された金属部品を量産して活用し始めました。それは、BMW i8ロードスターのアルミニウム製トノカバー・ブラケットでした。「現在は年間約3万件の仕事をこなし、20万個を超える部材を納入しています」とフィッカールは説明します。

3Dプリントのエキスパートたちは、「NIGHT SKY」プロジェクトに非常に熱心に取り組みました。携わった15名程の従業員の中には、ウィドマンシュテッテン構造の模様を3次元形式に変換したデザイナー、最適な3D印刷プロセスを特定したテクノロジーのスペシャリスト、そして、印刷された金属やプラスチックの部品を車両に取り付けた作業者がいます。

「アイデアやビジョンを素早く形にし、実際に触れられる物体として確認できるという点で、特に試作をつくる時に、アディティブ・マニュファクチャリングは魅力的です」とアレクサンダー・フィッカールは言います。彼は、自宅にも小型の3Dプリンターを保有しています。「一番最近では、破損した自転車ライトのブラケットを交換するために使いました。また、自分でデザインした花瓶を3D印刷してガールフレンドの誕生日プレゼントにしました」

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BMW NIGHT SKYフロントのパーツにある、3Dプリンターによる天体の模様。
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BMW NIGHT SKYの製作には、15名程の3Dプリントのエキスパートたちが携わった。
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ブレーキ・キャリパーの仕上げ。金属3Dプリンターでアルミニウム粉末を積層して造形します。
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金属3Dプリンターの見事な技術が凝縮された部材:ウィドマンシュテッテン構造の模様がブレーキ・ディスクに彫られた、BMW NIGHT SKYのアルミニウム製ブレーキ・キャリパー。
ブレーキ・キャリパーの3D印刷では、宇宙工学においても採用されているプロセスを用いました。
アレクサンダー・フィッカール

ミュンヘンにあるBMWグループのアディティブ・マニュファクチャリング・センターにてテクニカル・インテグレーションを担当

BMW NIGHT SKYで3D印刷された部材の大半はプラスチック製でした。ドア・ミラー・キャップや前方のエア・インテーク等です。「ウィドマンシュテッテン構造の模様をできるだけ細部にわたって再現するための真の課題は、最適な3D印刷プロセスを見極めることにありました」
アレクサンダー・フィッカールは仲間とともに、ステレオリソグラフィーという組み立てのプロセスを採用しました。この技術では、UV感受性の高い液状樹脂槽の中で、UVレーザーが積層によって造形体を構築します。

BMW NIGHT SKYにおいて、3Dプリンターで製造された最も大がかりな部材はアルミニウム製ブレーキ・キャリパーです。「アディティブ・マニュファクチャリング・プロセスの利点を最大限に活用し、従来の鋳造プロセスでは製造できない形状を実現しました。さらに、キャリパーの製造には、宇宙工学の分野でロケット推進部にも用いられるプロセスを採用しました」とアレクサンダー・フィッカールは説明します。「生体工学デザインを応用し、つまり、自然に基づいたデザインによって、重量を30%軽減しました。自然界と同じように、機能上必要な場所のみに素材を使用した結果、キャリパーにおけるさまざまなバーは樹木の枝のようにつながっています」

エキスパートたちは、キャリパーを最適化するための作業に多くの時間を費やす必要がありました。アルミニウム粉体層にて、厚さわずか0.05mmの部材を1枚ずつレーザーで融合させたため、実際の印刷プロセスが完了するまでに16時間かかりました。

3D印刷されたBMW NIGHT SKYの部材は、SFの世界でのみ存在するのでしょうか?それとも、アディティブ・マニュファクチャリング・プロセスで生産されたアルミニウム製キャリパーは近日中に量産されるのでしょうか?アレクサンダー・フィッカールの説明によると、「BMW NIGHT SKYと同様、3D印刷された部材も、未来を先取りする1台分のみの用意です。ただし、ブレーキ・キャリパーは現在開発・テスト中です。そして、これまでのところ期待の持てる結果が出ています」

BMWのディンゴルフィン工場にて、ヨハン・ボグナー(右)が仲間とともにBMW NIGHT SKYに星空を出現させました。

輝く星空-車の塗装工の技術

ヨハン・ボグナーはこれまでに数々の特殊なモデルのペイントを手掛けてきました。ファッション・デザイナーであるカール・ラガーフェルドのツー・トーン・カラーのBMW 7シリーズ・モデルを担当したり、中国やオマーンの顧客が求める独特な色彩のペイントをこなしたりしてきました。しかしながら、このBMW NIGHT SKYに星空を出現させるボディ・ペイントの仕事は、BMWのディンゴルフィン工場の塗装工房での、ヨハンの40年にわたるキャリアの中で最高の体験でした。

「2018年8月、夏季休業で工場が閉鎖されている中、私たちは塗装工房にこもって作業に明け暮れました」と55歳の塗装工は説明します。「外はとても良い天気でした。しかし、わたしはクルマのペイントに夢中でした」

初日には、ヨハン・ボグナーと他のメンバーが手作業だけで、ボディを単色のブラックでペイントしました。「翌日、わたしが車体の下の方からサンマリノ・ブルーの塗装を施し、滑らかなぼかしに仕上げました。2つの色はまるで本物の夜空のように、とても美しく調和しました」と塗装工は語ります。

星の輝きを、ボディ・ペイントに取り入れるというアイデアに魅せられたのです。
ヨハン・ボグナー

BMWのディンゴルフィン工場、塗装工の

特別な仕事が始まるまでの数週間、ヨハン・ボグナーは幾度となくニーダーバイエルンにある自宅の前に立ち、夜空を見上げ続けました。「星の輝きを、ボディ・ペイントに取り入れるというアイデアに魅せられたのです。クリア・コートにパール・ブロンズの顔料を加えることによってこの輝きを出しました」と彼は説明します。通常のメタリック・ボディ・ペイントより粒子が大きかったため、表面を滑らかに仕上げるために、クリア・コートを3層にわたって塗布する必要がありました。ヨハン・ボグナーはエフェクトと仕上げに4時間近くを費やしました。

完成した世界に1台だけの車両を披露するために、ヨハン・ボグナーはミュンヘンにあるBMW Individualの生産拠点へと向かいました。「ヘッドライトが点灯し、ボディ・ペイントの、ほのかに光る色彩変化の中から星々がきらめいた時は、まさにハイライトでした。大きな感動に包まれたのです」

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星空を思わせるエフェクト:まず、BMW NIGHT SKYを単色のブラックで下塗りしました。
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次に、2色目のサンマリノ・ブルーを手作業で塗布し、色彩に変化をつけました。
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そして、パール・ブロンズの顔料でキラキラとしたエフェクトを作りました。しかし、これだけでは星空は完成しませんでした。
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完璧な仕上げを施して比類なきBMW NIGHT SKYを完成させるには、クリア・コートを3層にわたって塗布する必要がありました。

個性をかなえるオプション

BMW NIGHT SKYは一般への販売を行いません。本物の隕石でできた素材を自動車に使用することが認められていないこともあり、真に唯一無二のモデルなのです。BMW Individualでエクスクルーシブ・カスタマー・アドバイザリー部のトップを務めるマシアス・バベルが説明する通り、生産チームは顧客からの特殊な要望を実現し続けています。「適用される安全規格、標準的なブランドの特徴、法規制、そして技術上必要となる製品機能を満たすものであれば、個別の要求に応じたデザイン・エレメントを盛り込むことができます。細部にわたって精緻なインレイから、例えばシルクといった特殊な素材まで、どんなご要望にもお応えします」

写真:BMW AG、ポートレート写真(2):ディルク・ブルニェツキ

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