

ガーデニングは人の手で注意深くこなす作業だと考えられています。石庭を作るために人ではなくロボット・アームを使おうと考えたのは、なぜでしょうか。
創作のコンセプトの源は、すべてが創作のコンテクストに対応したものでした。つまり、「2020夏季オリンピックを迎え入れる東京」というコンテクストです。日本はロボットの開発や先進的な導入をしていることで知られていますので、我々のスタジオで取り組んでいる芸術のコンテクストにロボット工学を応用する探求を続けるには、ぴったりの機会だと思えました。
ロボットを導入したおかげで、禅庭園が従来表現しているものを土台にして、さらに広げることができました。庭園の手入れを従来のように禅僧ではなくロボット・アームに託すことで、産業技術を取り入れた新しい語り方と、私たちの暮らしの中で増えつつあるロボットの役割を掘り下げることができたのです。
それに、ロボットは東京オリンピックとパラリンピックを盛り上げるためにぴったりのツールだと感じました。アームは精度、正確さ、繰り返しといった記録をつくる能力を備えていますが、これはアスリートが技を磨いて完成の域に仕上げることと同義だと気づいたのです。


ロボット・アームの使用が、思いがけない結果をもたらしたということはありましたか。
人間にとって動きのあるものに人格を見出すことは自然なことですが、それでも、巨大な産業マシンがすぐに生身の生き物のように思えてきたあの早さには、ただ驚かされました。絵を描写スタイルに応じて、キャラクターの認知のされ方も変わってくるのだとわかったのです。あるパフォーマンスをしているときに、ロボットはためらっているというか少し自信がなさそうに見えましたが、別のスケッチを描いているときは落ち着いて確固たる空気を漂わせていましたし、別のときは忙しなく不規則だとさえ感じられました。
東京の夏は天候が変わりやすいため、それもインスタレーションのフィーリングが変わる要因になりました。砂利は濡れると色が非常に濃くなります。薄い灰色の石がほとんど黒に変化します。最初に乾くのは小山に敷かれた砂利ですが、乾くにつれて色調が変化するため、雨上がりに庭が乾いていく過程で、見事な2トーンのイラストレーションが生まれるのです。


BMWにはどのようなイメージをお持ちですか。今回の意思決定に、BMW工場のアーム・ファクターが取り入れられたことについては、どうお考えでしょうか。
ザ・コンスタント・ガーデナーズで使用したロボットがBMW南カリフォルニア工場からの再生品であることは、私たちのメッセージと完璧に合っています。産業技術に新しい役割を創りだすストーリーに加えられるものです。BMW車の製造からイメージするのは、禅庭園と同水準の職人技と精緻さです。この技術を再利用するのは、適材適所と言えるでしょう。
コロナウイルスが蔓延している状況下で、地球の反対側にある国で大規模なインスタレーションを行うことは、困難であるはずですが、最も苦労したプロセスはどのようなことでしたか。
全世界でこのような状況ですから、プロセス全体がとても大変でした。一つひとつのステップが不確実でしたので。当初の予定では、インスタレーション全体を現地の東京で製作し、組み立てるつもりでしたが、渡航制限があったため、このプロセスは地元の英国で行うことになりました。組み立てやテストをすべて済ませてから、現物をそのまま送りました。
現場に行く人数を最小限に減らさなければならず、初めて視察した2019年以降、どの場所にも一度も足を運ぶことができませんでした。渡航ビザがなかなか下りなかったため、本当に製作を進められるのかどうかさえはっきりせず、結論が出たのはフライト前日の夕方4時、つまり組み立て作業を始める前日だったのです。


産業全体に視野を広げると、コロナウイルス蔓延はアート界にどのような影響を及ぼしているでしょうか。
状況は極めて厳しいですが、パンデミックが新たな機会を生みだしている側面もあります。公共の空間に対する認識がまったく新しいものに変わり、使われ方や公開のされ方に対する関心が高まっているのです。公共の領域に活気をもたらし、街に人々を呼び戻す存在として、芸術家がかつてないほど注目されています。仕事や交流をオンラインで行うという大規模なシフトもまた、ポジティブな影響をいくらかもたらしています。遠い国々のパフォーマンスや展示にもアクセスできるようになりました。これまで芸術とはまったく縁のなかった人々にとって、その世界に触れやすい機会が格段に増えたのです。
扉が開かれれば、人々とつながる体験に対する需要が高まります。そこから、新しい機会の波や新たなカルチャー構想につながっていくはずです。


様式は異なるかもしれませんが、日本と英国には庭園を芸術とみなすという共通点があるのではないでしょうか。
英国人の目から見ると、庭園はどのようなものを表しているのでしょうか。
英国人にとって、庭園は自然と触れ合う静かで平穏な場所であり、創造性を駆使して環境を形づくる機会でもあります。人と自然の世界との関係について考えるための、魅力ある手段ですね。庭はひとたび方向づけされ、進むべき道を自律するようになれば、環境をコントロールしようする人間の意志を反映します。別の視点から庭と共鳴するならば、これはいわば無益な追求ですし、ネガティブに受けとめられることが少なくありません。正しく繫栄するよう方向づけられた庭は、人間が周囲の世界にポジティブな影響を与えることができる空間を表しています。


英国からの訪問者から見て、日本庭園は何を表しているでしょうか(日本の石庭など)。
日本庭園は営みがある芸術作品です。行き届いた手入れ、高水準の精緻さと職人技により、心に静謐さが生まれ瞑想することにつながります。象徴に満ちあふれていますね。精神性があり詩的で、まるで生命を持った言語のようです。英国の庭園とはまったくの別物だと感じます。
今回のプロジェクトで作った日本の石庭のテーマには、どのような背景があるのでしょうか。
我々は日本庭園の持つ言語に魅了されました。とりわけ、それぞれの構成物が抽象的な語り部装置として役割を果たしている様に、象徴性と配置の意味を知ることによって、庭から物語を読み取ることができるのです。こうした概念を基にして、ザ・コンスタント・ガーデナーズのコンセプトが築かれました。庭園という環境を利用して、オリンピックやアスリートの動作を異なる物語で伝えようというコンセプトです。訪れる人のための空間をつくることも、我々の意図でした。静かで穏やかで瞑想的な庭の空気は、オリンピックの熱気が流れている東京でひと息つける空間をもたらします。


このプロジェクトを始める前から、日本のロボット文化に親しみを感じていたのですか。
スタジオではハイテクなパレットを使っているため、新たに生まれるテクノロジーにはいつも関心を寄せています。どのような使い方をされているのか、どのようなインパクトをもたらすのか、自分たちが創作を通じてどのように利用できるか、どう拡大していけるのか。 ロボット工学における、そしてもっと幅広いフィールドにおける日本の進歩的なテクノロジー文化は、我々のスタジオと深く関わる部分です。我々が初めてロボット・アートの世界に乗り出したのは2017年、ハルで開催された英国文化都市に出展する作品を依頼されたときです。テーマが「街の新しい部分に人々を誘い込む介入手段を創ること」だったため、産業ロボットをキャストとして採用し、生き生きとしたコレオグラフィーを演じさせ、人々を招き寄せるためにライトも使いました。
日本で過ごした時間はインスピレーションに満ちあふれていましたので、近いうちにぜひまた日本で活動したいと心から思っています。


日本の鑑賞者たちの反応はいかがでしたか。
訪問者はおよそ5万人、ソーシャル・ディスタンスを守った東京都民たちでしたが、じつに好意的に受け止められました。とてもうれしかったのは、ある通行人がいっていたこの言葉です。「 いつまでも見ていられる。人間みたいでかわいいから」。 これ以外の感想は、マシンの規模の大きさや、ロボットがいかに人間らしく見えるかというコメントが中心でした。訪問者たちは、普段は視界に入らないところにあるテクノロジーを見る機会を楽しんでいましたね。
イラストレーションがどう作られたかについても、おおいに関心を寄せていました。アスリートの動きを捉えて解釈するプロセスに魅了され、そのアウトプット結果がさまざまであることに驚いていました。


上野公園のインスタレーションの背景にあるメッセージは、どのようなものだったのでしょうか。
特定のポイントを示すのは気が進みません。なぜなら、我々の作品の大半が、新しい対話を開いて各人自分なりの解釈を促すことを意図しており、ザ・コンスタント・ガーデナーズもその例外ではないためです。インスタレーションの核心は、日常生活において機械が果たしている役割を中心に据えて新しい語り方を探求することです。オートメーションとAIはまだ不確実な環境下にありますが、人間や自然との調和的な関係をもたらし、マシンは芸術的な創造性や実験的な活動を可能にする力となることを示したのです。
ザ・コンスタント・ガーデナーズはアスリートの動きをリスペクトする役割も果たしました。イラストを描くパフォーマンスの一つひとつが、アスリートの技能に新たな次元の洞察をもたらしました。微細なところまで描出し、それぞれの動作を時系列に並べてどう展開されるか可視化するなどして、普段は目に見えない側面を強く打ち出したのです。
このプロジェクトによって、ロボット技術がもたらすクリエイティブな可能性が広がっていることを強調できればいいと願っています。ロボット技術を文化的なコンテクストや芸術への応用という範囲でどう活用できるか、そしてさらに、もっと幸福でもっと健康的な未来へどう貢献できるか、強く打ち出せればいいと思っています。


プロフィール
ジェイソン・ブルージュ・スタジオ
ロンドンを拠点に多分野で活躍するアーティスト兼デザイナーのジェイソン・ブルージュが、2002年に設立したスタジオ。建築家、アーティスト、エンジニア、計算設計者のチームに加え、エレクトロニクス、プログラミング、プロジェクト管理の専門家で構成。
インタラクションデザインを開発し、アート、建築、テクノロジー、インタラクティブデザイン分野のパイオニアとして国際的に活動している。
建築とインタラクションデザインを融合させ、最先端技術を駆使したミクストメディアを土台に、時空や空間をダイナミックに経験できる没入型体験を探求。人々をその環境に引き込むサイトスペシフィックな作品制作に情熱を注いでいる。