


ファッション・フォトグラファーのニック・ナイトは、常に、創造性と技術の面で新たな可能性を切り拓く努力を重ねています。数十年にわたって彼が生み出した作品は、特にファッション・デザイナーとのコラボレーションを通じて、固定観念を打ち破ってきました。それは、常に自分の技術の限界を探究し続けてきた結果でもあります。1958年生まれの彼は、山本耀司、ジョン・ガリアーノ、アレキサンダー・マックイーンなど、一流デザイナーとの革新的なコラボレーションを経て、ファッション写真の業界で影響力を築いてきました。常に美の固定観念に疑問を投げかけ、ときには論争の的となる社会問題にも精力的に取り組んでいます。
最新技術を用いた新しい表現手法に情熱を注ぎ、2000年には、SHOWstudioを立ち上げました。このデジタル・ファッション・フィルム・プラットフォームは、インターネットの成長とともに、メディアに大きな変革をもたらしました。今日私たちがオンラインで目にする最先端のファッション表現は、実は、約20年前にナイトによって始められたものです。そして、彼は現在も、自分自身と自分の作品を革新し続けています。
新しいBMW i7の発売に際し、ナイトに 「Forwardism(前進主義)」のコンセプトを象徴するクルマのイメージ制作を依頼しました。Forwardismとは、未来を予見して感じることを愉しみ、明日をより良いものにするために、固定観念にとらわれずに挑戦し続ける考え方や姿勢のことを表します。ナイトはこのチャレンジを引き受け、本領を発揮してくれました。今回の写真撮影の結果、従来のものの見方を覆すような、表現力豊かで探究的な芸術作品が生まれました。新たな可能性と感情の世界へと引き込まれる作品です。斬新で、遊び心があり、示唆に富んでおり、彼が何年もかけて確立してきた独自性が息づいています。
今回、撮影現場でナイトと会い、彼の作品とニューBMW i7の写真撮影にまつわる話を聞きました。Forwardismに対する彼のヴィジョンや、今の彼が抱いている未来への期待などについてご紹介します。
ナイトさんは以前、写真は真実や目に見えるものを写すと誤解されている、とおっしゃっていましたね。あなたにとって写真とは、目に見えないものを創造し、アーティストの考え方を映し出すものだと。では、目に見えないものをどのようにして表現するのでしょうか?
写真には、前後の文脈から完全に切り離された、ある一瞬の出来事が収められています。そして、私たちの抱いている欲望を示す何かを、わずかに映し出しています。目の前にあるものを事実として、ただ記録しているのではありません。私が写真を撮るときには、自分が見たいものや欲しているもの、そして自分を驚かせるものについて考えながら、シャッターを切っています。

優れた技術を持つフォトグラファーは、見る人に今まで感じたことのない気持ちを抱かせることができるのですね。では、クルマという、とても身近なものを撮影する際は、どのようなアプローチをとりましたか?
今回のキャンペーンでは、人々のものの見方を少し解放し、新しい方法でイメージを解釈するよう促したいという思いがありました。それが、デジタルで色空間を反転させた理由です。画面を見ると、カメラの前とは違う世界が広がっていました。もはや私たちが住んでいる世界ではなく、存在しない幻想的な空間です。そこでは自由に何かを楽しんだり、新しいことを感じたりすることができます。新しい見方をもたらすだけでなく、ある種の決断や現実の制約から解放してくれます。私はすぐに、緑色や青色の肌をした人たちとの撮影が楽しくなりました。皆さんにも、この解放感を味わってもらえたら嬉しいです。
あなたの作品には、現状に疑問を投げかけ、新しい技術をいち早く活用して、表現方法を進化させるという特徴があります。あなたは以前、「未来は、私が思考の大半を捧げているもので、特異な空間である」ともおっしゃっていました。未来から得たヴィジョンを実現することについて、詳しく教えてください。
その言葉は、まさに写真撮影について語っていて、私は自分たちが未来の世界を生きていると本当に思っています。なぜなら、目には見えないけれど望むものを創り出すことは、未来の行為だからです。欲望を抱くことは、常に未来に基づいています。まだ持っていないものを、欲する行為です。ファッション写真に関して言えば、衣装が発表される少なくとも6カ月前には撮影が行われるので、物理的にもかなり未来で仕事をしていると言えます。

ファッション写真では、見せる対象から物語が生まれるとおっしゃっていましたね。BMW i7に置き換えると、どのような意味になりますか?
このクルマは、さまざまな価値観や決断を象徴しています。仕上げや質感など、このクルマを構成するものすべてが、何かを表現しています。それらを作品にするには、その価値観の理解が必要です。そうでなければ、良い写真を撮ることはできません。このことを知ったのは、1980年代半ばに、日本人デザイナーの山本耀司のもとで働いたときです。彼の服は、その当時、誰も見たことがない、何にも似ていないものでした。まるで人間の身体を新しい形式で提示しているようで、私は彼が何を伝えようとしているのか理解しようと努めました。ファッションとは、今あるものを否定し、新しいものに置き換えることです。当時の山本は、まさにそれを行っていたと思います。BMWが、BMW i7で行っていることも同じだと感じます。
このクルマについて、あなたが感じたことを詳しく教えてください。
BMW i7に乗り込んで最初に感じたのは、安全でエキサイティングな空間だということです。クルマが醸し出すラグジュアリーな雰囲気によって、瞬時に安心感に満たされ、ストレスから解放されます。自分のために特別に作られた一台のように思え、オーダーメイドのような体験ができ、贅沢な気分にもなります。また、未来とつながっている感覚も得ました。このクルマは、私たちの身の回りに到来しつつある新しい世界に、すでに深く関わっています。人工知能やテクノロジーがドライバーをサポートし、あらゆる運転をより愉しいものにしてくれます。ファッション業界における変化のように、簡単かつ迅速にクルマが変化することはありませんが、このクルマは社会で起きている変化を反映しています。

ニューBMW i7は、Forwardismの思想の下で誕生した、新時代の幕開けを告げる存在です。あなたにとって、Forwardismとはどのような概念ですか?
私にとってのForwardismは、これから起こることや、すでに社会で起こっている大きな変化を恐れないことです。バーチャル・リアリティー、自分自身のアバター、機械学習や人工知能といったアイデアに、私は強い魅力を感じます。アーティストとしての私の仕事は、感情に訴える美しいものを通じて、自分たちが何者であるかを表し、住みたいと思う世界を創造することです。そのためには、ロボティクスやAIなど、未来のものを取り入れていく必要があります。新しい可能性を活用し、社会に対する芸術的なヴィジョンから、より良い未来を描いていかなくてはなりません。また、Forwardismと人間性との関わりにも興味があります。テクノロジーによって、私たちは、より良い人間になることができます。ただし、私たちが人間性と考えるものや、大切なものすべてを失うことなく、テクノロジーを利用する方法を見出す必要があると思います。
作品では、BMW i7とともに、Forwardismの概念をどのように表現しましたか?
過去を基準に考えるのではなく、未来を見据えるという、Forwardismの考え方が気に入りました。それは、自分自身を表現し、挑戦するための唯一の方法だと思います。だから、この撮影で色を反転させ、「これは新しい。未だかつて見たことがないものだ」と感じさせる色空間にしました。それを起点に、見る人が新しいものについて感じ、先進的な考えを持つような視覚芸術を創りました。今までに見たことがないようなものにすることが重要です。
メタバースという概念をきちんと理解していない人が大半ですが、あなたはすでにアバター、バーチャル・ライブ・イベントなどによる、ファッション業界での意義を探求しています。これから、どんな未来が待っていると思いますか?
メタバースをより深く知るたびに、非常にわくわくします。可能性に満ちあふれた世界が、私たちを待ち受けています。膨大な量の知識にアクセスできるようになったり、人とコミュニケーションをとるための新しい方法が生まれたりするのは、魅力的です。私は今、自分自身の3Dアバターを作っています。メタバースの中では、自分の見せ方を決めることができます。現実の姿に似ていても、まったく異なっていても構いません。生活をより豊かにするための、新しい可能性がたくさんあります。これからの時代は、人として自分たちがどういう存在か、どう行動したいのか、新しい答えを見つける必要があり、バーチャルの世界がそれをサポートしてくれると思います。そんな新しい可能性について知れば知るほど、今の時代への期待が高まります。
THIS IS FORWARDISM
この記事は、「THIS IS FORWARDISM」を体現するシリーズの一部です。これは、次の時代を切り拓くためのマインドセットを持つ人々の物語です。そして、自分自身を豊かにするだけでなく、周りの人たちをも豊かにし、いつも進歩的な姿勢で生きている人々の物語です。Forwardism(前進主義)とは、未来を想像し、より大きく持続的な歓びを得るために、常に固定観念に疑問を投げかけ、挑戦し続けることを意味します。
記事: Jelena Pecic; 写真: Nick Knight, Britt Lloyd; 動画: Nick Knight;
アートディレクション: Verena Aichinger, Lucas Lemuth